神明クリニック

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コラム

神戸新聞・折込の、地域の広報にあります「とことん、おおくぼ Okubo.com」の「ドクター西原のいきいき生活通信」で掲載された内容です。ぜひ皆様の生活にお役立てください。

3月号 レビー小体型認知症について
2月号 急性胆のう炎について
1月号 少子高齢化社会における医療・介護問題について

レビー小体型認知症について

 今回はレビー小体型認知症についてのお話です。
 初めて聞く疾患かもしれませんが、認知症の約20%を占めていて、アルツハイマー型認知症についで多い疾患ですので、是非覚えておいてください。

 レビー小体というのはα-シヌクレインというタンパク質が神経細胞に異常に蓄積したもので、1913年に病理学者であるレビー医師によって発見されました。そして1976年には日本人医師である小坂先生が大脳皮質の神経細胞にレビー小体が蓄積する新しい認知症の症例を世界で初めて報告され、後にこの疾患がレビー小体型認知症と命名されました。
 また、パーキンソン病でもこのレビー小体が脳幹内の中脳にある神経細胞に蓄積していることが示されており、パーキンソン病の主因とされています。

 レビー小体が蓄積する原因はよくわかっていませんが、主に脳幹に蓄積するとパーキンソン病で、脳の広い範囲に蓄積するとレビー小体型認知症になります。
 中核症状は次の三つで、
 ①幻視:「人が立っている」とか「虫が這っている」といった内容だったり、部屋の模様などが別の物に見えたりします。
 ②パーキンソン症状:動作が鈍くなり、姿勢が変えられずに転倒したり、進行すると嚥下障害がみられ、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
 ③認知症の変動:認知機能障害において記憶障害はむしろ軽度で、物事の理解ができたり、できなかったりと症状の変動がみられます。その他の症状は
 ④レム睡眠行動異常:レム睡眠(浅い眠り)中に大声を出したり、手足や体を動かしたりして、自身がケガをしたり、隣で寝ている人がケガをしたりすることがあります。
 ⑤自律神経障害:起立性低血圧や失神、便秘などです。

 診断はこれらの特徴的な症状と画像検査(MRI検査やシンチグラフィー検査など)によってなされますが、症状や経過が多様で、他の疾患(アルツハイマー型認知症や薬剤の影響など)との鑑別が難しいこともあります。
 治療は残念ながら特効薬がないため、中核症状(幻覚、パーキンソン症状、認知症)に対する対処療法が中心となります。
 またリハビリや生活環境を整えることも重要ですが、在宅での介護では対応が難しいこともしばしばみられます。その場合は在宅にこだわらず、施設入所や入院も積極的に考慮すべきです。

 早いもので、あちらこちらで春の足音が聞こえてきましたね。
 もうすぐプロ野球も開幕です。阪神タイガースの連覇に期待しています。

いきいき生活通信 2024年 3月号

急性胆のう炎について

 昨年、世界の平均気温が観測史上最高だったそうで、もはや温暖化ではなくて沸騰化の時代とも言われています。地球の未来が心配ですね。
 これからは、私なりにもう少し興味を持って考えてみようと思っています。

 今回は日常診療でときどきみられる「急性胆のう炎」についてです。まれに命に関わることもある疾患です。

 胆のうは肝臓の下側にある袋状の臓器で、肝臓で作られた胆汁を一時的に溜めておいて、食べた物が十二指腸までやってくると、胆のうが収縮して胆汁を十二指腸へ排出し、主に脂肪の消化・吸収を助ける働きをしています。

 その胆のうにはよく石ができます。10人に1人は胆石を持っていると言われています。胆汁を胆のう管に送り出すときにその石が邪魔をすると、胆のうから胆汁が排出できず、胆のう内の圧が上がって痛みが起こります(胆石発作)。
 右上腹部の強い痛みが特徴的で、食後2時間ほど続くこともあります。石が移動すれば痛みは消失しますが、石が胆のう管に陥頓し出口を塞いだままになると、胆汁の流れが滞り、胆のうは腫大して胆のうの粘膜が損傷します。すると、体内では炎症を誘発する物質が分泌され、急性胆のう炎へと進行していきます。そして、腸管内の細菌が逆行性に胆のうに感染したり、胆のう壁が血流障害により壊死・穿孔して腹膜炎に至ることもありますので、要注意です。

 急性胆のう炎の症状ですが、何と言っても右上腹部の痛みです。
 原因のほとんどが胆石によるので当然ですが、違和感から激痛まで痛みの程度はさまざまです。その他、嘔吐、発熱(微熱から高熱まで)、黄疸などもよくみられる症状です。さらに重症の場合は血圧低下(ショック状態)や意識障害もみられることがあります。

 診断はこれらの症状に加えて、血液検査で白血球数やCRP値の上昇および超音波検査で胆のう炎の所見(胆のう腫大や胆のう壁の肥厚、胆石など)を認めることです。診断は難しくないのですが、高齢者の方は症状が分かりにくい場合もあります。

 治療は絶食、輸液、抗生剤、胆のうドレナージなどですが、軽症から中等症の場合は可能なら早期の胆のう摘出術が望ましいとされています。また、急性胆のう炎の再発率は30%で、がんを合併することもありますので、いずれにせよいずれは手術をした方が良いでしょう。

 胆石をお持ちの方は普段から脂肪分の多い食事を控えめにして、急性胆のう炎に気を付けてください。

いきいき生活通信 2024年 2月号

少子高齢化社会における医療・介護問題について

 明けましておめでとうございます。本年も神明クリニックをどうぞよろしくお願いいたします。

 今年は西暦2024年ですが、以前から「2025年問題」とか「2050年問題」というタイトルで、日本の将来における問題が提起されてきました。当コラムでも一度この問題を採り上げました(2018年1月)が、来年はいよいよその2025年です。
 第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた、いわゆる「団塊の世代」の方々が後期高齢者(75歳以上)になる時期で、およそ3人に1人が高齢者(65歳以上)で、5人に1人が後期高齢者になる未曾有の少子超高齢化社会に突入します。医療・介護制度はどうなっていくのでしょうか。

 問題点はいろいろありますが、主要な問題に絞ってみると
 ①医療・介護費用の増大:高齢者が増えると、当然医療と介護にかかる費用が増えます。これらの費用はその大部分が税金から支払われていますので、今のままでは一人ひとりの税負担が大きくなります。病院の窓口で支払う自己負担額を上げたり、診療報酬を下げたり、在宅医療を推進したりとあれこれ手は打っていますが、財政面の観点からみると「国民皆保険制度」および「介護保険制度」を維持できるのか非常に心配です。
 ②労働力人口の減少:高齢者が増える一方、若年層は減少傾向で、すなわち医療・介護サービスの需要が増える一方、若年層による労働力の供給は減少していくと予測されています。医療・介護従事者の不足が指摘されている中、高齢者の再雇用や外国人労働者の雇用、ロボットの活用なども少しずつ進んでいますが、医療・介護の質を維持できるのか心配です。
 現在の限られた財源および人材では、医療・介護制度は破綻しそうです。国もいろいろと対策は練っていますが、もっともっと抜本的な構造改革が必要かもしれません。

 私自身は周りから「もういい加減やめてくれ」と言われるまでは仕事を続けたいと思っています。元来、無趣味でなまけ癖があるので、何か仕事をしていないとダメになりそうです。
 労働力人口の減少は是非とも高齢者を上手く活用するシステムを構築することで解決してほしいです。少しでも働くことで社会との繋がりも実感でき、より健康的で生き生きとした生活が送れると思います。
 実際に65歳の方々はまだまだ元気だと思いませんか。ちょっと先走り過ぎかもしれませんが、高齢者と呼ぶのは70歳からでも良いのではないでしょうか。

いきいき生活通信 2024年 1月号