神明クリニック

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コラム(2009年)

12月号心臓神経症について
11月号新型インフルエンザの現況について
10月号新型インフルエンザワクチンQ&A
9月号身の引き締まる思い~新型インフルエンザ
8月号細菌性食中毒について
7月号胃食道逆流症について
6月号認知症について
5月号介護保険制度について
4月号急性心筋梗塞について
3月号ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)について
2月号今冬(2008~2009)のインフルエンザについて
1月号夜間頻尿について

心臓神経症について

新型インフルエンザの流行が続いています。ワクチンも順次始まっていますが、くれぐれも気をつけてください。さて今回は外来で比較的多くみられる心臓神経症についてお話してみます。
皆さんは動悸を感じたり、胸が熱くなったりしたことはありませんか。大勢の方が経験したことがあるのではないでしょうか。

原因は不整脈や狭心症、甲状腺機能亢進症などいろいろと考えられるのですが、検査をしても異常がない場合も多く、最終的に心臓神経症と診断することがよくあります。心臓神経症とは心臓そのものには異常がなく、自律神経の働きにより心臓に関連した症状(動悸や胸痛など)を起す疾患です。皆さんが運動したり興奮したりすると勝手に心拍数は増え、一方、安静時や睡眠中には自然に心拍数が減ります。これは自律神経が必要に応じて心拍数を調整しているからです。自律神経には交感神経と副交感神経があり、互いに相反的に働きます。心臓は両者の支配を受けていますので、例えば運動時など、全身の細胞がより多くの血液(酸素)を必要としている場合は交感神経が働き、心臓を強く早く動かすわけです。

一方、睡眠中には全身の細胞は運動時ほど血液(酸素)を必要としないので、副交感神経が働き、心臓をゆっくりと動かすのです。もし安静時に不安やストレス、緊張などによりこの交感神経の働きが活発になってしまうと、心拍数や心拍出量が増え、動悸や胸部の違和感として自覚されるのです。そして自分は心臓が悪いのではないかと心配になり、この悪循環のため、症状は更にひどくなったりします。

心臓神経症自体は命に関わる疾患ではないので心配することはないのですが、症状が長く続いたり、強い場合には日常生活に支障を来たしますので、治療が必要だと考えます。不安やストレスの原因が家庭や職場、あるいは交友関係などはっきりしている場合には何よりもまず周囲の協力が重要です。特別な原因がなく、自分は心臓病ではないかと病気に対する不安が強い場合には、ゆっくりと時間をかけながら、心臓病ではないことを説明していく必要があります。
いずれの場合も抗不安薬が有効です。また状況によっては心療内科の受診が必要なケースもあります。治療が長期になることもありますが、心配ありませんので、気長に付き合って下さい。

いきいき生活通信 2009年 12月号

新型インフルエンザの現況について

全国的に新型インフルエンザが大流行しています。10月19日から25日までの一週間に百万人以上の方が新型インフルエンザに罹患しました。特に小中学生に多く(患者さんの約85%が19歳以下)、学級閉鎖の学校数も全国で一万を超えています。もはや感染の拡大を防ぐのは困難な状況です。一週間毎の患者数の推移をみると、まだピークを過ぎているとは言えず、今後は、感染時に重症化するおそれのある乳幼児(5歳以下)や老人(65歳以上)あるいは基礎疾患のある方々などのハイリスクグループへと感染が拡大する可能性があります。では、私たちはどうすれば良いのでしょうか。

皆さん、人が集まる場所ではきちんとマスクをして下さい。私は8月以降これまでに多くの新型インフルエンザに罹患した患者さんと身近に接してきましたが、私もスタッフも新型インフルエンザには罹っていません。マスクの効果が大きいと実感しています。
また、11月より妊婦さんや透析患者さんへの予防接種も開始されました。基礎疾患があるなどハイリスクグループの方々は予防接種をできるだけ受けたほうが良いでしょう。

今のところ重症度や死亡率については季節性のインフルエンザと大差はないようですが、ハイリスクグループの方々は十分に用心して下さい。健康な方が新型インフルエンザに罹患して短期間で亡くなられたケースが報道されていますが、これまでの患者さんはほとんどが普段健康である方ですので、確率的には非常に稀なケースであり、特殊な例といえるでしょう。実際に私が診てきた患者さんは小中学生が中心であり、その大半は一日から二日で解熱しています。

一方、これまでに亡くなられた方の約80%はハイリスクグループの患者さんです。今後ハイリスクグループへ感染が拡大していく可能性がありますので、マスクと予防接種でできる限り感染予防に努めましょう。予防接種につきましては前回簡単にお話しましたが、現在国が中心となって、ワクチンの副作用や効果、接種回数、接種時期などを検証しており、今後も適宜変更などがあると思われますので、末端の医療機関である私たちもそして皆さんも柔軟に対応していきましょう。

いきいき生活通信 2009年 11月号

新型インフルエンザワクチンQ&A

新型インフルエンザの流行がいよいよ本格化してきています。そこで今回は新型インフルエンザワクチンについて簡潔にお話してみます。

Q: いつから接種できますか?
A: 10月19日から開始予定ですが、ワクチンの供給が順次行われるため、皆さんが一斉に接種できるのではなく、優先接種対象者から順に接種していきます。
Q: 優先接種対象者とは?
A: 優先順に(1)医療従事者(主に医師、看護士)(2)妊婦および基礎疾患を有する者(3)1歳~小学3年生の小児(4)1歳未満の小児の保護者など(5)小学4~6年生、中高生および高齢者(65歳以上)。上記以外の方の接種については現在のところ未定です。
Q: 基礎疾患とはどのような病気のこと?
A: (1)慢性呼吸器疾患(喘息や肺気腫など)(2)慢性心疾患(心不全や狭心症などで、高血圧は含まれません)(3)慢性腎疾患(腎機能が高度に低下している患者さんや透析患者さんなど)(4)肝硬変(5)神経疾患・神経筋疾患(6)血液疾患(白血病やリンパ腫など)(7)糖尿病(合併症のある患者さんや薬物療法中の患者さん)(8)病気や治療による免疫抑制状態(リウマチなどの膠原病や癌など)。ただしワクチンの供給が順次なされるため、これらの疾患を有する患者さんの中でも優先順位があり、経口糖尿病薬を内服している患者さんや早期癌の患者さんなどは後回し(おそらく12月以降)になります。
Q: 接種回数は?
A: 4週間隔で2回接種することが前提となっていますが、1回接種で十分であるとの報告もあるため、今後見直されるかもしれません。
Q: 費用は?
A: 1回目3600円、2回目2550円、合計6150円です。ただし軽減措置もあります。
       
Q: どこで接種できますか?
A: 国と委託契約を結んだ医療機関です。明石市では10月5日の時点でまだ決まっていません。多くの医療機関で接種できることが望ましいです。また接種は予約制であり、かかりつけ医以外で接種する場合は何らかの基礎疾患の証明書が必要になるでしょう。
Q: 国内産および輸入ワクチンの有効性と安全性は?
A: 国内産は現在臨床試験中であり、10月中旬に1回接種後の中間結果が判明します。また輸入ワクチンの臨床試験結果は12月以降になるようです。
Q: 季節性のインフルエンザワクチンと同時に接種できますか?
A: 必ずしも禁止されているわけではありません。しかし同時接種を評価したデータがないため、十分な検討が必要であると言えるでしょう。また輸入ワクチンと季節性ワクチンの同時接種については、当面の間は控えたほうが良いと考えられています。

以上、新型インフルエンザワクチンのお話でした。皆さん是非参考にして下さい。

いきいき生活通信 2009年 10月号

身の引き締まる思い~新型インフルエンザ

私がこのコラムを書いているのは9月1日の月曜日で、ちょうど始業式の日です。通りでは登下校の子供たちの声が響きわたり、雲ひとつない空は筆舌しがたいほどに美しく見えます。しかし自身の心の中はというと、空とは対照的にどんよりとした雲に覆われているようで、すっきりとしない気分です。なぜかと自問自答してみると、医療従事者として身の引き締まる思いのする出来事が連日ニュースなどで報道されている事に行き着きます。

一年ほど前にこのコラムで新型インフルエンザの話をしましたが、その頃は鳥インフルエンザウイルスが人への感染性を獲得し、新型インフルエンザとなるかもしれないこと、そして非常に致死率が高いことをお話しましたが、人への感染性を獲得したのは、鳥ではなく豚インフルエンザウイルスでした。そしてこの豚からの新型インフルエンザは皆さんご存知のとおり、現在流行の兆しをみせています。

8月15日には透析患者さんで国内一例目の死亡例が報告されました。常日頃、透析患者さんを診療している医療従事者にとっては、まさに身の引き締まる思いなのです。そしてこのインフルエンザに対して、ほとんどの方が免疫を持っていないと考えられますので、この秋から冬にかけて大流行する可能性があります。実際、この大久保地域でも少しずつインフルエンザに罹患する患者さんは増えています。いったいどれだけの方が今後この新型インフルエンザに罹患するのだろうかと考えると、今日(9月1日)の秋空のようにすがすがしい気持ちにはなれないのです。

感染を予防するために、ワクチンが開発されていますが、現在のところ接種開始時期は10月中旬から下旬になりそうです。またワクチンの効果は接種後3~4週間はかかりますので、11月下旬頃までは一人一人が、そして社会全体が感染を拡げないように十分に注意する必要があると思います。

症状は今のところ季節性のインフルエンザと大差はありませんが、あまり楽観しないほうが良いでしょう。大流行する可能性があること、そして変異を起して薬が効かなくなったり、致死率が高くなる可能性も否定できないからです。皆で手洗い・マスクを心がけ、少しでも新型インフルエンザを拡げないようにしましょう。

いきいき生活通信 2009年 9月号

細菌性食中毒について

今年の夏はエルニーニョ現象(赤道付近の東太平洋で海水の温度が高くなる現象)のため、例年に比べて梅雨明けが遅く、じめじめとした日が長く続きました。8月になってようやく夏らしくなり、にぎやかな蝉の鳴き声も夏を歓迎する喜びの声のように聞こえます。

さて、今回は夏場によく起こる食中毒についてお話します。 食中毒の主な原因である細菌は今年の夏のような高温・多湿を好みますので、夏は細菌による食中毒が増えます。症状は下痢、腹痛、嘔吐、発熱などで、脱水症状も強く、入院が必要なこともあります。

代表的な食中毒を説明しますと、皆さんがよく摂取する食品の中ではサルモネラによる食中毒があります。サルモネラは牛・豚・鶏などの食肉に普通に存在しており、加熱が不十分であれば、摂取する菌の数も多くなり発症する危険性が高くなります。また鶏卵にも存在していることがあるため、肉や鶏卵は長期の保存を避け、調理後は早めに食べましょう。潜伏期は半日~2日です。 最近増加傾向にある食中毒はカンピロバクターによる食中毒で、鶏レバーや牛レバーなどの刺身や鶏のたたき、加熱が不十分な鶏関連の食品などを摂取した際に起こることがあります。潜伏期は2~7日と長く、症状のあった日に摂取した食事は関係ありません。

魚介類では腸炎ビブリオによる食中毒が多くみられ、アジやサバ、タコ、イカなどに存在しており、これらの刺身には注意が必要です。また包丁やまな板などを介して他の食品を汚染し、二次感染することもありますので、調理器具は調理毎によく洗ってから使用しましょう。潜伏期は半日~1日です。

私たちの皮膚に普通に存在する黄色ブドウ球菌も食中毒の原因になります。この菌が調理する人の手からおにぎりやサンドウィッチに感染し、その食品中の菌によって作られた毒素を摂取すると発症します。摂取後3時間以内に発症しますが、熱は微熱程度です。調理前の十分な手洗いが重要です。

これらの他にもウエルシュ菌や病原性大腸菌などがあります。治療は点滴などで脱水を補正し、水分中心の食事療法を行い、原因菌に応じて抗生剤の投与を行いますが、これまで述べたように、食中毒は防ぐことができる病気です。菌を付けない(洗浄)、増やさない(冷却、乾燥)、殺す(加熱)ことを念頭に調理をしましょう。

いきいき生活通信 2009年 8月号

胃食道逆流症について

今回は比較的頻度の高い疾患である胃食道逆流症についてお話します。胃食道逆流症は文字どおり胃液などの胃内容物が食道に逆流することで胸がチリチリ焼けるような灼熱感や胸痛、食道でつかえる感じ、あるいは喉の違和感や長引く咳、口の中の苦味などを引き起こす疾患です。皆さんはこのような症状に心当たりはありませんか。
本来、胃と食道の境界には食道括約筋があり、これが逆流を防止する弁のような働きをしており、簡単には胃の内容物が食道に逆流しないようになっています。ではどうして逆流するのかと言いますと

(1)食道括約筋の働きの低下
加齢による変化です。
(2)食道裂孔ヘルニア
胃と食道の境界が腹側から胸側に持ち上がることで起こります。これも大半は加齢が原因です。
(3)腹圧の上昇
肥満やベルトなどによるお腹の締め付け、あるいは骨粗鬆症などで背中が丸くなったりすることが原因です。
(4)胃酸過多
コーヒー、たばこ、アルコール、脂肪の多く含まれている食事などは胃酸の分泌を刺激します。
(5)食べ過ぎ
胃酸の分泌を刺激したり、胃内の圧が上昇したり、食物の胃の中の停滞時間が長くなったりします。
(6)食後すぐに横になる

これらが主な原因です。
典型的な場合は症状だけで診断はある程度可能なのですが、診断を確定するためや逆流の程度を把握するため、あるいは食道癌を除外するためにも内視鏡検査は受けたほうが良いでしょう。また心臓疾患である狭心症も症状によっては胃食道逆流症と鑑別が必要になることがありますので、気をつけなくてはなりません。

そして治療ですが、原因のところで述べましたように、まずは食べ過ぎに注意して、できれば食後2時間は横になるのをやめましょう。治療の基本は生活習慣の改善です。それでも症状がみられるようであれば、薬物療法が有効です。薬は主に胃酸の分泌を抑える薬と消化管の運動を改善する薬が使われますが、特に胃酸の分泌を抑える薬は非常によく効きます。内視鏡検査で異常がなくともこのタイプの薬が効けば、胃食道逆流症と考えてよいでしょう。

また逆流を長期間繰り返していると食道粘膜が変化して癌のできやすい粘膜(バレット食道)になることがありますので、胸焼けなどの症状のある方は生活習慣を改善し、是非必要な検査および治療を受けて下さい。

いきいき生活通信 2009年 7月号

認知症について

いかなる人も老化現象によって、いずれは物忘れをしたり、記憶力が低下します。しかし、そのことで日常生活に著しく支障を来たすことはありません。

一方、認知症であれば早晩日常生活に支障を来たすようになります。認知症では本人自身が物忘れをするようになったことを十分に認識しておらず、また物を見てもそれが何なのかわからなくなったり(失認)、それまでは出来ていた事が出来なくなったりします(失行)。このように日常生活に支障を来たすような物忘れや記憶力の低下、そして失認や失行が見られれば、認知症の可能性が高いでしょう。さらに周辺症状として、怒りっぽくなったり、暴言や徘徊、妄想(物を盗まれたと言い張るなど)、幻覚・幻聴などの症状も見られることがあります。この認知症の原因には、アルツハイマー病や脳卒中(脳梗塞や脳出血)、正常圧水頭症などがあるのですが、半数以上はアルツハイマー病が原因です。

さてアルツハイマー病ですが、原因は不明で、脳細胞が変性・脱落し、そして徐々に進行し、最終的には寝たきりの状態になる病気です。高齢であったり家族歴や遺伝因子、動脈硬化を来たす要因(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など)があれば発症しやすいことがわかっています。

根本的な治療法はありませんが、早期発見・早期治療が重要で、進行を遅らせたり、症状を軽減させる目的で薬物療法が行われます。また周囲の対応としては、優しく接することが重要で、間違いや誤りを責めたりすると逆効果です。認知症患者さんの理解しがたい行動は全て病気が原因であり、怒ったりしても治るものでは決してありません。認知症という病気がそのような行動を起させているのだと考え、状況に応じて適切な方法を考えるべきです。

さらに根本的な治療法がない現状では、病気の予防も非常に重要であり、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの病気があれば、良好にコントロールしなければなりません。食生活に気をつけ、適度に運動をしましょう。また普段から新聞や本を読んだりして、よく頭を働かせ、そして何よりも生きがいを感じられる趣味や楽しみを持ちましょう。

今後、高齢化がますます進むことを思うと、もはやアルツハイマー病は患者さんを介護している家族だけの問題ではなく、社会全体で病気の予防や患者さんを支えるシステムを充実させねばならないでしょう。

いきいき生活通信 2009年 6月号

介護保険制度について

「もし父親か母親が認知症や寝たきりの状態になったらどうしようか」とふと考えることがあります。

仮に父親が寝たきりになった場合、両親は二人で暮らしていますので、母親が介護することになると思うのですが、母親ももう若くはありません。さらに母親の体調が悪くなった場合、私たちで介護することになれば、大変なことになるのは想像に難くありません。

このようなケースは決して珍しいことではなく、現在の高齢化社会では日常的にみられる事です。10年以上前は大抵このような場合は病院に入院して、入院期間が長くなれば、別の病院へ転院するといった社会的入院がよく行われていました。医療保険が使えるわけですから、入院者の家族にとっては経済的負担が少なく、さらに病院ですから安心感もあります。しかしこの方法では医療費はどんどん増大し、また空きベットがないために、入院の必要性が高い患者さんが入院できないといった問題もありました。

このような状況を踏まえ、病気の治療は医療で、介護は福祉でという考え方のもと、9年前に介護保険制度が施行されるようになりました。簡単に説明すると、40歳以上の方(被保険者)が毎月市町村など(保険者)に保険料を納め、保険者はさらに国や県、あるいは市などから公費を割り当てられ、この保険料と公費を使って、介護が必要であると判断された被保険者に対して、介護サービスを提供する仕組みです(一割は自己負担)。ただ、誰もが介護サービスを受けられるわけではなく、このサービスを受けるためには介護が必要であると公的に認定(要介護認定)されなければなりません。また認定の区分は介護予防を目的とした要支援1・2と介護を目的とした要介護1~5の7段階に分かれており、それぞれの段階に応じて必要なサービスを受けることになります。さて、このように介護保険制度は介護が必要になった老人を社会全体で支え、誰もが安心して老後を迎えられるようにするために作られた大変すばらしい制度であります。

しかし実際には利用者の負担増のため十分な介護サービスが受けられなかったり、また介護報酬の引き下げなどにより、介護事業所の倒産や介護の現場で働く人たちが低い給与のためにすぐに辞めてしまうなど、いくつかの問題点が指摘されています。

今後、高齢化が進むにつれ、介護保険にかかる費用はますます増えていきますから、納める保険料も増えるのは仕方がないでしょう。なんとか皆で支えあい、さらに充実した制度になって欲しいと願っています。

いきいき生活通信 2009年 5月号

急性心筋梗塞について

皆さんもご存知のことと思いますが、先日、タレントの松村邦洋さんがマラソン中に意識不明の状態で倒れ、病院に運ばれました。原因は急性心筋梗塞でした。
このニュースを聞いて、私の中で4年前の出来事がふつふつと思い出されました。

夜中、自宅で寝ていると実家から電話があり、父が胸を苦しがっているという連絡でした。大丈夫だろうとは思いながら、実家に駆けつけてみると、そこには布団の上に座り、顔面蒼白で胸を苦しがっている父の姿がありました。脈を触れてみると明らかに弱く、おそらく心筋梗塞であろうと思いました。急いで、車に乗せて病院へ連れて行くと、やはり急性心筋梗塞と診断され、すぐに緊急カテーテル治療を受けました。幸い治療は上手くいき、現在、父はほとんど後遺症もなく元気に過ごしています。

急性心筋梗塞は心臓に栄養を与えている血管(冠動脈)が主に動脈硬化などによって閉塞してしまい、それ以上先に血液が流れなくなった状態です。血液が流れなくなるとその部分の細胞は酸素や栄養分を受け取れず、やがて死に至ります。緊急カテーテル治療が一般に行われるようになった今でも、致死率は20%程度といわれています。

症状は胸が締め付けられるような痛みや苦しみですが、顎や左肩の痛み、あるいは歯痛ということもあり、見逃されることもあります。また労作や脱水などが誘因になることが多いのですが、安静時にも起こります。特にこれまで労作時に数分程度で改善していた胸部症状(労作性狭心症)が安静時にも起こるようになった場合(不安定狭心症)、心筋梗塞へ進展する可能性が高いので、このような場合は早めに病院を受診して下さい。

さて、心筋梗塞になりやすいのは、糖尿病や高血圧、脂質異常症(特に悪玉コレステロールが高い場合)などの動脈硬化を引き起こす疾患をお持ちの方や、喫煙者、肥満、家族歴(血縁者に心筋梗塞や狭心症に罹患した方がおられる場合)のある方々です。

ですから予防法としては

  • ① 血糖・血圧を良好に保つ
  • ② 肉より魚中心の食生活(悪玉コレステロールを下げます)
  • ③ たばこを吸わない
  • ④ 太りすぎない
  • ⑤ 脱水状態に気をつける

などです。

また性格的にストレスを感じやすい方はのんびりしている方より心筋梗塞などによる突然死が多いことがわかっていますので、是非ストレスには上手に対処したいものですね。

いきいき生活通信 2009年 4月号

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)について

私が研修医だった頃、胃潰瘍や十二指腸潰瘍はストレスや薬剤、たばこ、コーヒーなどが原因と考えられていて、治療でいったん良くなってもすぐに再発することが多々ありました。ですから潰瘍の患者さんはずっと薬を内服することもありました。
しかしそれから数年後、潰瘍の主な原因はピロリ菌の感染であることがわかりました。実際、ピロリ菌を除菌すると再発率が極端に減少したのです。

このことは私の医者としての経験の中では非常に衝撃的なことで、それまで信じていたことが間違いであったこと、そして医学の世界ではわかっていることより、まだわかっていないことのほうが圧倒的に多いかもしれないということに身が引き締まる思いでした。

ピロリ菌は以前からよくテレビなどでもとりあげられているので、皆さんも聞いたことがあるでしょう。
ピロリ菌は私たちの胃の中に住みついており、およそ二人に一人がこのピロリ菌を保菌しています。

胃の中は非常に酸が強いので、生物は存在しないと考えられていたのですが、ピロリ菌は自らウレアーゼという酵素を分泌し、このウレアーゼが胃内の尿素をアンモニアに変化させ、そしてアンモニアが酸を中和することで、胃に感染することができるわけです。ピロリ菌はウレアーゼ以外にも毒素などを分泌するため、胃の粘膜が障害されます。
実際に、ある研究者がこのピロリ菌を自ら飲んで実験したところ、急性胃炎を発症し、引き続いて慢性胃炎へと進展したのです。すなわち、ピロリ菌が胃炎の原因になることが証明されたわけです。そしてこの胃炎(萎縮性胃炎)が胃癌の発生母地となることがわかっているため、現在ピロリ菌と胃癌との関連が精力的に研究されています。

このように書くとピロリ菌を保菌している方は除菌して欲しいと思うでしょう。
保菌しているかどうか調べる検査法は確立されており、内視鏡検査をしなくても、血液や尿、あるいは呼気でも調べることができます。また除菌療法の成功率も80%前後あります。ただ現在、保険診療で認められているのは、胃潰瘍・十二指腸潰瘍のみであり、保菌者であれば誰もが治療できるわけではありません。

ですが、あまり神経質になる必要はないかと思います。医学の世界ではまだわかっていないことがたくさんありますので、曖昧なことを信じるのは慎重にしたほうが良いでしょう。もしかするとピロリ菌が私たちに対して良いことをしている可能性もありますので。

いきいき生活通信 2009年 3月号

今冬(2008~2009)のインフルエンザについて

この冬、当クリニックでは、12月初め頃よりインフルエンザの患者さんがぽつぽつとみられるようになり、その後は年末にかけて少しずつ増えていきましたが、まだ流行とはいえない状況でした。ところが年が明けて成人の日の翌日(1月13日)から急激に増え、それもほとんどが13・14歳の中学生でした。そしてその後は患者さんの家族や仕事をしている方々に急速に広がっていくのを実感しました。

私自身、毎日インフルエンザの患者さんを診察しているわけですが、幸いインフルエンザには罹っておりません。もちろん予防接種もしていますし、ある程度インフルエンザに対して免疫があるのかもしれませんが、やはりマスクをしていることが感染予防には重要ではないかと思っております。インフルエンザは咳やくしゃみの際に放出されたウイルスを吸入することで感染しますので、その侵入を防ぐマスクは非常に効果的だといえるでしょう。

さて、当クリニックでのインフルエンザの患者さんを診察していて思うことがあるのですが、皆さん比較的有熱期間が短いなと感じています。高熱はせいぜい半日~1日という患者さんが多くおられました。患者さんが若いということ、予防接種をしている方が多かったこと、治療薬(タミフルとリレンザ)が有効であったことなどが考えられます。予防接種をしても感染を防げないことはありますが、やはり症状の軽減にはつながっているなと思いました。予防接種をされた方の中には熱が出ずにインフルエンザだった患者さんもおられました。ワクチンはインフルエンザウイルスのAソ連型とA香港型とB型のそれぞれの型において何千もある株の中からこの冬に流行すると思われるウイルスに近い株を選択して作られます。非常によく研究されていますので、実際に流行するウイルスと大きく違うことは考えにくいでしょう。症状の軽減にはワクチンも含めた個人の免疫力が重要です。

またこの冬のインフルエンザはAソ連型が約50%、A香港型が約40%、B型が約10%です。そしてAソ連型はほとんどがタミフルに耐性となっています。当クリニックでも必然的にリレンザの処方が多くなっていますが、いずれリレンザにも耐性になるでしょう。このとこからもインフルエンザは予防することが大切です。

3月末まではインフルエンザも続くでしょうし、流行を最小限にするためにも皆さん是非マスクを活用して下さい。

いきいき生活通信 2009年 2月号

夜間頻尿について

私は時折、夜中寝ているときにトイレに行きたくなり、トイレに起きようかあるいは我慢してこのまま朝まで寝てしまおうか迷うことがあります。寒い時期は特にトイレに起きるのが億劫ですので、何分間も頭の中でトイレに起きようか起きまいか問答しています。結局はトイレに行くことになるのですが。

患者さんの中にも夜間頻尿を訴えられる方が少なからずおられます。特に高齢者の男性に多くみられます。男性の場合、加齢とともに、膀胱の出口にある前立腺が腫れてくると(前立腺肥大症)、尿道を圧迫するために尿が出にくくなります。したがって常に残尿感があり、尿意を感じやすくなるのです。前立腺肥大症にはよく効く薬がありますので、この場合は薬物療法をお勧めします。また中年の方の場合は、慢性前立腺炎を考えなくてはなりません。前立腺に細菌が感染し慢性化すると、前立腺肥大症と似たような症状(頻尿、残尿感)を引き起こすことがあるのです。慢性前立腺炎は抵抗力が低下していると起こりやすく、抗生剤が有効ですので、難治性になる前に早めに治療を開始することが重要です。

次に女性に多くみられる原因としては、過活動膀胱症候群および間質性膀胱炎があります。現時点では前者と後者は重なる部分があるようで、厳密に区別することは難しいようです。私なりに簡単にお話しますと、いずれも原因は不明で、中高年の女性に多くみられ、頻尿および尿意切迫感を主症状とする疾患で、排尿筋の活動が亢進している場合が過活動膀胱症候群で、膀胱上皮に異常を認める場合は間質性膀胱炎となります。

膀胱の活動を抑える薬が治療の基本となります。不眠も夜間頻尿の原因になります。本来、眠っている間はホルモンの働きにより尿があまり作られないのですが、不眠状態であれば、日中と同じように尿が作られるために、何度もトイレに行くことになるのです。また冬は体が冷えるために、汗の量が減り、夜間の尿量が増えて頻尿になります。他にも、脳梗塞などの後遺症による神経因性膀胱や出産などの影響で起こる腹圧性尿失禁も夜間頻尿の原因になります。

このように夜間頻尿をきたす原因は多岐にわたりますが、それぞれに対処法がありますので、皆さん症状があれば、病院で相談してみてください。

いきいき生活通信 2009年 1月号