神明クリニック

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コラム(2021年)

12月号3回目の新型コロナワクチン接種について
11月号2021~2022年度インフルエンザワクチンについて
10月号顔面神経麻痺について
9月号冷え性について
8月号コレステロールのお話
7月号慢性の便秘について
6月号骨粗鬆症の治療薬「ビスホスホネート製剤(ビス製剤)」について
5月号新型コロナウイルスの変異株について
4月号ピロリ菌の最近の話題について
3月号新型コロナウイルスワクチン“コミナティ”について
2月号認知症の「共生」と「予防」について
1月号コロナワクチンについて

3回目の新型コロナワクチン接種について

「五十にして天命を知る」は約2500年前に孔子が残した有名な言葉です。私は今まさに五十代なのですが、自分がいかに小さな存在で、できることも非常に限られていることを日々思い知らされています。何でもできると勘違いしていた若い頃と違って、「天命を知る」というとちょっと大げさですが、この先自分がすべきこと(それしかできないこと)が分かってきたように思います。決して残念な気持ちなのではなくて、もうあまり迷いがないだけ、むしろすっきりした気持ちかもしれません。

コロナ禍はまだ続くと予測されています。第6波に備えて3回目の新型コロナワクチン(ファイザー社製)接種がいよいよ始まります。2回目のワクチン接種から6~8か月経過した18歳以上の方が対象で、まずは医療従事者からになります。高齢者の方は来年からの予定です。

ワクチン接種によって体内で作られた抗体価は新型コロナウイルスに感染でもしないかぎり徐々に低下していきます。ワクチン接種が早くから行われていたイスラエルでは2回だけと比べて3回目のワクチン接種によって重症化や死亡のリスクは90%前後低下することが示されています。一方、米国の研究では2回目のワクチン接種後は徐々に感染を予防する効果は低下するけれども、入院を予防する効果は接種後5か月を過ぎても変わらない、すなわち重症化を防ぐには2回のワクチン接種でも十分である可能性が示唆されています。どちらのデータも正しいとすれば、重症化を“ある程度”防ぐには2回のワクチン接種だけでも良いが、より高い確率で重症化を防ぐためには3回目のワクチン接種が必要であるということでしょう。

肝心の副反応ですが、ファイザー社の発表によると2回目と3回目で副反応(倦怠感や筋肉痛、発熱など)は同程度だったとのことですので、過度に心配しなくても良さそうです。

海外での流行状況を考えると、このままでは専門家の方々が指摘しているように第6波はおそらく来るのでしょう。活発化してきた経済活動をできるだけストップせずに第6波に備えるためには、やはり3回目のワクチン接種とこれまで行ってきた3密を避ける意識が必要なのだと思います。

今年もあとわずかとなりました。過ぎてしまうとそうでもないのですが、やはり大変な一年だったという思いがあります。この正月は家族みんなで過ごしたいですね。

いきいき生活通信 2021年 12月号

2021~2022年度インフルエンザワクチンについて

この冬、果たしてインフルエンザは流行するのだろうか?昨冬はインフルエンザの患者さんが非常に少なくて、当院でもわずか三人(例年300~700人程度)だけでした。全国的にも全く流行しませんでした。その理由については①新型コロナウイルスの流行②新型コロナウイルスへの感染対策(マスク、手洗い、3密を避ける、ソーシャルディスタンス)③海外からのインフルエンザの持ち込みの減少などが考えられていますが、実のところよくわかっていません。日本だけでなく世界的に流行しなかったことを考えると、新型コロナウイルスの流行そのものが影響しているのは間違いないと思われるのですが、どのように影響したのかがわからないので、この冬のインフルエンザの流行についても予測できない状況です。

新型コロナウイルスがヒトに感染・流行することにより、その他のウイルス、例えばインフルエンザウイルスなどがヒトに感染できなくなるという「ウイルス干渉」もある程度は理解できるのですが、全く違う別の機序があるようにも思えます。

新型コロナウイルスがこのまま収束に向かわなければ、この冬もインフルエンザは流行しないかもしれないです。実際に毎年日本で流行するインフルエンザは、その半年前に南半球で流行する傾向があるのですが、今年は南半球ではインフルエンザが流行しませんでした。したがって、日本でも「この冬にインフルエンザは流行しない」というのは一理あると思います。

一方、集団免疫の観点から考えると、昨年度インフルエンザが流行しなかったことからインフルエンザに対する集団免疫は非常に低下している可能性があるので、もしかすると爆発的に流行するかもしれません。この冬に流行しなければ、その次の冬には大流行するかもしれません。集団免疫の重要性は新型コロナウイルスでも実感するところであり、ワクチンが救世主となっていますね。

さて、今年もインフルエンザワクチン接種の時期となりました。今年度のワクチンも昨年と同様4価(A型2種類、B型2種類)のワクチンです。この冬のインフルエンザの流行がどうなるかわからないので接種をどうするか悩んでおられる方もいるとは思いますが、これから来るかもしれないインフルエンザの大流行を防ぐためにもインフルエンザワクチンは接種しておいたほうが良いと私は思っています。

いきいき生活通信 2021年 11月号

顔面神経麻痺について

ワクチン接種率の上昇とともに新型コロナウイルスの感染者数も減少してきています。このまま収束に向かってくれるといいのですが、専門家の見立てはそんなに甘くはなさそうですね。ここまで来たら収束までとことん頑張ろうと思っています。

さて、今回は顔面神経麻痺のお話です。顔面神経は文字通り顔面の筋肉を支配する運動神経であり、脳からの指令が脳幹(橋)にある顔面神経核に伝わると、その核からでている顔面神経線維が顔面神経専用の管を通って、いくつかの顔面の筋肉に分布しています。脳梗塞などで脳から橋の間で障害を受けると中枢性、橋からでた顔面神経がそのどこかで障害を受けると末梢性の顔面神経麻痺となります。外来でよく経験するのはもっぱら末梢性の方です。

顔面神経は主に表情筋を支配しているので、この神経が麻痺すると「顔がまがった」「目が閉じない」「口角が上がらない」といった症状がみられたりします。突然右か左の顔の感覚がおかしく感じて、鏡で顔を見ると、いつもと違う顔になっていたらびっくりしますね。「もしかしたら脳梗塞かも」と不安になったり、「手も足も動くし、意識もしっかりしているし、何が起こったのだろうか」と混乱したりするかもしれません。

末梢性の顔面神経麻痺の原因は糖尿病や外傷などのこともありますが、多くは原因不明で「ベル麻痺」と呼ばれています。ただし、犯人扱いされているウイルスがいくつかあり、口唇ヘルペスの原因ウイルスである単純ヘルペスや帯状疱疹の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルスなどです。これらのウイルスは普段、神経細胞が集まった神経節に潜んでおり、寒冷刺激や飲酒、過労、精神的ストレスなどが引き金となって活性化し、顔面神経に炎症を起こすと考えられています。特に水痘・帯状疱疹ウイルスが原因の場合は難聴やめまいを伴って耳介周囲に疱疹がみられ、ラムゼイ・ハント症候群と呼ばれています。

ベル麻痺の治療は炎症を抑えるためのステロイドとヘルペスウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬が中心となります。これらの治療で麻痺は完全に回復することが多いのですが、麻痺がひどい場合や治療が遅れると後遺症が残ることもありますので要注意です。症状がみられてから3~4日以内に治療を開始することが重要ですので、とにかく顔面神経麻痺かもしれないと思ったらすぐに医療機関を受診してください。

いきいき生活通信 2021年 10月号

冷え性について

今年の夏はとにかく雨の日が多くて、暑さも思っていたほどではなかったですね。特に夜は自宅で冷房をつけていると寒く感じる日が多くて、体の芯から冷える感じがしました。そして私の場合、体が望む範囲の室温でなければくしゃみ・鼻水が止まらなくなる習性があって、診察室でも自宅でもこの夏はしょっちゅうくしゃみをしていました。妻には以前からややこしい体質の人だと思われているのですが、自分でも何か変な体だと自覚しています。でも、仕方がないのです。自律神経は自分の意志ではどうにもできないから自律神経なのです。

思えば子どもの頃、毎年冬になると足にしもやけができていました。あの何とも言えない“痛痒さ”はつらかったのですが、いつの間にかしもやけはできなくなり、その代わりによく足が冷えるようになりました。特に冬場は布団の中でも足が冷たくて、手で温めたり足の部分だけ毛布を2重にしたりと、いろいろと苦労しています。さらに最近は加齢に伴って冷え性が加速しているようです。

人は冷えを感じると、体の熱を放出しないよう手足の血管を収縮させて、体の中心部分に血液を集めて、体を温めようとします。一方、暑さを感じると、体の熱を放出するために、手足の血管を拡張させて全身に血液を十分に循環させ、発汗することで、体を冷やそうとします。いずれの場合も時間が経つと、これらの反応は元に戻るわけですが、いつまでも手足の血管が収縮したままであれば、手足を異常に冷たく感じてしまいます。

そして冷え性の主な原因ですが、一般的には①筋肉量が少ないこと(熱産生が減少したり、血流が弱くなったりして、体が温まりにくい)②自律神経失調(体温調節がうまくできないため、末梢の血管が収縮したままになる)③ホルモンの変動(更年期や月経不順が自律神経の失調へとつながる)④生活習慣の乱れ(ダイエットや睡眠不足)⑤遺伝的な要因などが関係しています。対策としては、しっかり食べて、運動をしてとなりますが、そんなに簡単に体質は変わりませんので、服装やグッズ(レッグウォーマーやカイロ)などで、冷えないように工夫をすることも重要です。また、ビタミンEなどの血流を良くする薬や冷え性に対して効能がある漢方薬も一度試してみても良いでしょう。

早いものでコロナ禍の生活も一年半になりました。世界は相変わらず不安定で先行き不透明ですが、「日々目の前のことに頑張るのみ」ですね。

いきいき生活通信 2021年 9月号

コレステロールのお話

今回はコレステロールのお話です。卵や肉類にはコレステロールがたくさん含まれています。これらの食品を取り過ぎると血液中のコレステロールも高くなるかというと、必ずしもそうでありません。

実はコレステロールの大半は主に肝臓で糖質や脂肪酸から作られているのです。そして合成されたコレステロールと食事から摂取したコレステロールの量は体内である程度一定に保たれるように調節されていますので、例えば食事からの摂取量を減らしても、その分だけ体内で合成されるようになるのです。

ではコレステロールが高い人は食事療法をする必要はないのかというと、それは正しくなくて、何が言いたいのかというと、コレステロールが高くなるのは体質的な影響が強いので、みんなが同じように厳しい食事療法をする必要はないということです。特に高齢者の場合、コレステロールは動物性たんぱく質に多く含まれていて、これを制限するとかえって栄養不足につながる可能性がありますので、食事療法をすべきかどうかはケースバイケースです。

そもそもコレステロールは体にとって必要不可欠な物質で、細胞膜の主要な構成成分であり、性ホルモンやステロイドホルモン、胆汁酸などの原料でもありますので、少々コレステロールが高くても問題ないことは多々あるのです。そしてこの体に必要なコレステロールはそのままでは血液中に溶けないので、水になじみやすいたんぱく質に包まれて、「リポたんぱく」という物質に形を変えて全身を駆け巡ります。

リポたんぱくは含まれているコレステロールの比率や結合しているたんぱく質の違いなどによって、LDLコレステロール(悪玉)やHDLコレステロール(善玉)などに分かれますが、特に悪玉が高くて、悪玉と善玉の比が2.5以上の方は要注意です。この比が高くなるほど心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患が起こりやすいので、コレステロールの摂取が過剰な場合は制限しなければいけません。

具体的には肉類などの動物性脂質は控えめにして、摂取する場合はその吸収を抑えるために、野菜などの食物繊維をしっかり取ること、青魚にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった悪玉が増えにくい脂肪酸が含まれていているので積極的に食べるようにすること、そして何よりも運動、特に有酸素運動は善玉を増やす効果がありますので、自分にあった運動をみつけて実践してください。

いきいき生活通信 2021年 8月号

慢性の便秘について

子供の頃は偏食がひどくて、学校の給食も苦手なものだらけで、とりわけ、チーズとカレーに入っているグリンピースが苦手でした。野菜が食べられるようになったのも中学生の頃だったので、以前はずっと便秘気味でした。今はさすがに好き嫌いもなくなって、便秘もほとんどありません。ただ、ときどき便秘になることがあって、二日間便秘だとお腹が張って、落ち着かなくなります。たかが便秘、されど便秘ですね。

そんな便秘を自覚している人は非常に多くて、下剤を服用している人も少なくありません。「慢性便秘症診療ガイドライン2017」によれば、便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。これまでは排便回数(1週間に3回未満など)で定義されたりしていたのですが、数日間排便がなくても平気だったり、毎日排便があっても残便感を感じる人もいますので、排便回数よりも状態で定義するほうがしっくりくるというわけです。

定義に従って考えてみると、「糞便を十分量排泄できない」というのは、便が大腸に滞っていて、いわゆる宿便がある状態や糞便量そのものが少ないことであり、加齢などによって大腸の働きが弱くなったり、食事の摂取量が少なく便の量自体が減少していることが原因です。一方、「糞便を快適に排出できない」ということは、便が直腸まで運ばれているのになかなか排出できない状態で、直腸や肛門の神経反応が鈍くなっていることが原因です。ウォシュレットの使用はこの神経の反応が鈍くなる要因と言われています。

水分や食物繊維をしっかり摂取して、適度な運動と規則正しい生活を心掛けてもダメな場合は、やはり薬が必要になります。便を柔らかくする「酸化マグネシウム」や腸を刺激する「センナ」や「大黄」を成分とした下剤を使用している方が大多数だと思います。また、浣腸薬や直腸を刺激する坐薬などを使う場合もあるでしょう。さらにこの10年程の間に新しいタイプの下剤がいくつも登場しています。どの下剤を使うか悩ましくなることもありますが、下剤には「依存」と「耐性」の問題がありますので、できれば作用の弱い薬を少ない量で使うように意識したほうが良いでしょう。

最後に、もうすぐ東京五輪が始まりますね。コロナ禍の前に思い描いていたものとは随分違ったものになりますが、純粋にスポーツの素晴らしさを感じたいと思います。

いきいき生活通信 2021年 7月号

骨粗鬆症の治療薬「ビスホスホネート製剤(ビス製剤)」について

高齢者の新型コロナウイルスのワクチン接種がようやく始まりました。クリニックの重要な任務ですので、速やかに無事終えて、次の基礎疾患のある方の接種へと進めていきたいと思っています。ワクチン接種事業が終了するまでスタッフ一丸となって務めてまいります。

さて、先日クリニックで身長を測定したら、20代の頃と比べて5mm背が縮んでいました。骨量の減少が始まっている証拠ですね。骨量は主に加齢や女性ホルモンの不足によって減少しますが、骨がもろくなって骨折しやすい状態が骨粗鬆症です。骨粗鬆症は本質的には老化現象ですので、患者さんの数はとても多くて、約1300万人と推定されています。整形外科疾患ですが、これだけ患者さんが多いと、ついでと言っては何ですが、内科でも定期薬に加えて骨粗鬆症の薬を処方することが時々あります。そこで、今回は骨粗鬆症の薬の中で最もよく使われているビス製剤についてのお話しです。

ビス製剤は破骨細胞によって骨が溶かされるのを抑えることで骨密度を高める作用があり、「朝起きてすぐに十分量の水で服用し、その後30分は横にならずに食事をしてはいけない」といろいろと制限のつく、皆さんよくご存知のあの薬です。毎日・週一回・月一回服用する3タイプがあり、その他ゼリー状のものや、注射薬(月一回か年一回)もあります。ちょっと面倒な薬なのに一番使用されているのは、それだけ骨折の予防効果が高いということです。開発時の臨床試験では骨粗鬆症でよくみられる椎体骨折や大腿骨近位部骨折については約50%の骨折抑制効果が示されています。

そして副作用や治療効果の観点から3~5年の継続した服用が推奨されています。5年以上の継続についてはその有益性は証明されていません。また重要な副作用として顎骨壊死と非定型骨折があります。顎骨壊死は歯科治療後に悪化することがあるため、注射薬を使用する場合は事前に歯科治療を済ませておくこと、3年以上ビス製剤を内服している場合や顎骨壊死のリスク要因が明らかな場合は歯科治療時に3か月間程度の休薬が望ましいとされています。

一方、非定型骨折とは骨粗鬆症でみられるような大腿骨近位部の骨折ではなく、もう少し下の方や大腿骨骨幹部などにみられる骨折で、O脚でビス製剤を使用している方に起こりやすいようですので、注意してください。

最後に骨粗鬆症は生活習慣病でもありますので、しっかり食べてよく動きましょう。

いきいき生活通信 2021年 6月号

新型コロナウイルスの変異株について

競泳女子の池江選手が先月の日本選手権に出場し、見事に東京五輪の代表権を獲得しました。自身が白血病であることを公表したのが2年3か月前で、すぐに入院して治療を受けられ、退院したのが1年6か月前。その間、急性リンパ性白血病に対して、強力な化学療法はもとより造血幹細胞移植も受けられています。移植後はさまざまな制限や注意事項があり、そして免疫抑制剤を中心とした多くの薬を服用することになりますので、精神的にも体力的にも通常の生活に戻るまでにかなりの時間を要します。こんなに短期間で競泳のオリンピック代表に選ばれることはまさに異次元の出来事です。

東京五輪開催には賛否両論ありますが、私は十分な対策を講じた上で、ぜひ開催してほしいと思っています。そして、私達に、世界中の人々に少しでも元気を与えてほしいです。

一方、新型コロナウイルスについては大変な状況になってきていて、変異株の感染が拡大していています。そもそもウイルスは自身で増殖することができないので、何とか人に感染して、その人の体内で増殖し、そして別の人へと感染を繰り返すことで、自らが生き延びていきますので、ウイルスも必死なのです。増殖する際には自己の遺伝子が複製されるのですが、一定の確率でミス(変異)が起こります。その変異が自身の生存に有利であれば、その変異したウイルスが従来のウイルスに比べて優勢になっていきます。したがって新型コロナウイルスが変異することは想定の範囲内であり、また変異したウイルスの感染力が強くなることも合点がいくわけです。

現在、日本で感染が拡大している変異株もやはり従来型と比べて感染力が強いことが示されています。心配ですね。どうすれば良いのでしょうか。

致死率が約1.9%(インフルエンザは0.02~0.03%)であることを考えると、感染して免疫を獲得することは避けるべきで、やはりワクチンや治療薬がとても重要になると思います。現実的にはワクチンをできるだけ速やかに接種し、そして変異株だからといって特別なことをする必要はなく、これまで通り、3密を避けて、ソーシャルディスタンスを保ち、マスク・手洗いをして体調管理に努めることが大事です。

ワクチンによる免疫獲得は不完全かもしれませんが、要は重症化しなければ新型コロナウイルス感染症もそれほど心配することはありませんので、ワクチンによる重症化を防ぐ効果に私は期待しています。

いきいき生活通信 2021年 5月号

ピロリ菌の最近の話題について

グローバル化に警鐘を鳴らすかのような新型コロナウイルスのパンデミックですが、それでも人々が進む方向(ベクトル)は決まっているような気がしています。何事もポジティブに考えて日々過ごしたいですね。

さて、今回は皆さんにも馴染みのあるピロリ菌について、最近の話題を少し話してみたいと思います。1983年に世界で初めてピロリ菌が人の胃から分離培養されて以降、これまでにわかってきたことをまとめてみると①世界中の半数以上の人が感染している②主に上下水道が普及していない地域において、免疫が不十分な幼児期に汚染された水、食べ物、唾液などから経口感染する説が有力③萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの疾患と関連がある④除菌療法の成功率は二次除菌も含めると95%以上である。大雑把に要約するとこんな感じです。

衛生環境の改善や2000年に除菌療法が保険適応となったことから、今後はピロリ菌の感染率が低下し、胃がんの発生が減少すると考えられています。ピロリ菌の感染はまさに「百害あって一利なし」と思われるのですが、そうでもない話もちらほら。

まず、ピロリ菌にもアジアとその他の地域では毒性に違いがみられており、欧米で胃がんが比較的少ないのはピロリ菌の持つ毒性が弱いためであると考えられています。毒性の弱いピロリ菌は単なる常在菌の可能性もあるわけです。また、ピロリ菌感染によって脳卒中による死亡が減少するという海外での報告もあります。日本でも最近「自己免疫性胃炎」が注目されていて、この疾患はピロリ菌に感染していない人に多くみられる傾向があり、胃粘膜の萎縮を引き起こし、胃がんとも関連があると考えられていて、ピロリ菌感染とは対立的な関係にあることが示唆されています。

そして、胃がんの主要な原因がピロリ菌感染であることは明らかなので、除菌療法に大きな期待がかけられているのですが、除菌後も胃がんがしばしばみられていて、期待していたほどの効果ではないのが現実です。ピロリ感染から胃がんへの発生過程もいくつかのパターンがあると考えられていますので、除菌療法後も定期的に胃カメラを受けることが重要です。

一方、除菌療法の弊害ですが、逆流性食道炎や種々のアレルギー性疾患の増加などが指摘されていて、他の疾患への影響については研究中といったところです。私自身は除菌後の落ち着いた胃粘膜を何度も目の当たりにすると、胃の中にピロリ菌は不必要だと思っています。

いきいき生活通信 2021年 4月号

新型コロナウイルスワクチン“コミナティ”について

2月17日からファイザー社の新型コロナウイルスワクチン(コミナティ)の接種が始まりました。まずは特定の医療機関約100施設に勤務する医療従事者4万人に対して接種が行われ、続いてそれ以外の医療従事者500万人、4月以降に65歳以上の高齢者3600万人、その後基礎疾患のある人820万人、高齢者施設の職員200万人、そして最後に16歳以上(16歳未満は対象外)の一般の方々への接種となります。

ただし、ワクチンが順調に海外から輸入できればよいのですが、不確かな状況のようです。2月末の時点では私は3月中にコミナティを接種しているはずで、3週間の間隔で2回接種する予定ですが、少し遅れそうです。そして皆さんが心配している副反応ですが、私もちょっと心配です。それもそのはずで、このワクチンは世界初のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで、これまでのワクチンとは随分違っているからです。

さて、その安全性についてですが、やはり他のワクチンと比べると副反応の頻度は多いようです。1回目より2回目の方が副反応は起こりやすいので、海外約4000例と日本約120例での治験時の2回目接種後7日間の副反応の発生頻度を記してみると、注射部位の疼痛(海外72.6%、日本79.3%)疲労感(55.5%、60.3%)頭痛(46.1%、44%)筋肉痛(33.5%、16.4%)悪寒(29.6%、45.7%)関節痛(20.5%、25.0%)発熱(13.6%、32.8%)と報告されていて、海外と比べて日本では悪寒、発熱が少し多いようです。

そして重篤な副反応であるアナフィラキシー反応ですが、昨年12月に米国で接種された約190万回のうち21例(100万回あたり11.1回)で検出されています。いずれも回復しているようですが、この結果は、およそ100万回に1.3回程度とされているその他のワクチンに比べると、少し多いように思いますので、十分な対策と注意が必要です。

肝心の効果ですが、まだ短期間のデータしかありませんが、海外での治験時およびイスラエルでのデータはほぼ同等で発症予防も重症化予防もおよそ89~95%前後ですので、効果は非常に高いと言えます。

ただし、不安点もちょっとだけ。ウイルスの変異によって効かなくなる可能性や、この効果がどのくらい持続するのか、また副反応についても遅発性の有害事象などは今後の情報を待たなければなりません。そして妊婦さんや授乳中の方については、接種する必要性が非常に高い場合のみ接種を考慮することになると思います。まだまだ安心できない状況ですが、少し光が見えてきた感じがしています。

いきいき生活通信 2021年 3月号

認知症の「共生」と「予防」について

「耐え忍ぶ」まさに今はそんな状況ですね。
新型コロナウイルスの感染防止に向けて2021年1月14日~2月7日の予定で兵庫県においても緊急事態宣言が発令されました。営業時間の短縮や外出自粛などの要請があり、街中の人の数も随分少なくなったように思います。1月末時点で、明石市内の感染者数にはまだ大きな変化はないようですが、これから減少してくるはずです。
そしてもうすぐ始まるワクチン接種の効果に期待して、何とかこの難局を乗り越えましょう。

さて話は変わりますが、最近、患者さんの名前を忘れてしまうことがあります。定期的に通院されている患者さんしかり、週に3回来院されている透析患者さんの名前でさえ、すぐにでてこないことがあって、ちょっと不安に感じている今日このごろです。
またクリニックも開院してから15年になりますので、長く通院されている患者さんに認知症の症状がみられてくることもしばしば経験します。皆さんの周りでも認知症はごくありふれた疾患になっているのではないでしょうか。

実際に認知症の人の数は年々増えていて、4年後の2025年には約700万人に達すると推計されていて、これは高齢者(65歳以上)の5人に1人が認知症ということになります。すなわち、私もあなたも、そして家族も含めて誰もが認知症になる可能性があるということです。

こうした状況の中、2020年に国は認知症への今後5年間の施策として、「認知症との共生」および「認知症の予防」ができる社会の実現を目指すこととしています。
「共生」は認知症になってもこれまで通り、案ずることなく、同じ社会で希望を持って生活しようということで、「予防」は認知症になるのを遅らせたり、その進行を緩やかにしようということです。認知症になることは避けられなくても、発症や進行は生活習慣や社会環境などで遅らせることができることが分かっています。

そして認知症の人が年々増えている中、その介護のために大変な苦労をされている家族の方も少なくありません。このことが大きな問題でもあり、本人や家族周囲の力、すなわち自助や共助ではどうにもならないことも多く、社会全体で支えていく仕組みをもっと充実させていく必要があります。

「共生」と「予防」はわかりやすくてその考えにも大賛成ですが、そのためには介護者や介護従事者への支援が重要かなと思っています。

いきいき生活通信 2021年 2月号

コロナワクチンについて

2020年はまさに“コロナ禍”な一年でした。当クリニックもいろいろと大変で、スタッフみんなが、こんな時こそ地域の医療に貢献したいという気持ちと、高齢者や透析患者さんが来院するクリニックにおいて、どこまでその診療に関わってよいのかという葛藤が常にありました。そしてその葛藤は今年も続きます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は現在進行形です。
気を引き締めて頑張りますので、本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、そのCOVID-19ですが、いつになったら終息するのでしょうかね。一般的なこととして、あるウイルス感染症が終息するためには、その集団の70%の人が抗体を持つことが必要であると言われています。したがって、70%の人が感染するか、あるいはワクチン接種によって免疫を獲得しないといけないわけですが、国内の感染者数は12月下旬時点で20万人前後であり、人口の0.2%程度です。70%の人が感染することは想像を絶するような事態ですので、これは何としても避けるべきで、治療薬がない状況ではワクチンだけが頼りになります。

そして、そのワクチンですが、現在世界では50種類以上のワクチンが開発中で、中国とロシアでは国内で作られたワクチンの接種が昨年夏よりいち早く始まっていて、特に中国製のワクチンについては中東やアジアでも接種されています。日本で使用される予定のワクチンについては、現在3種類のワクチンが確保されていて、そのうちの一つが先月、英国や米国などで緊急的に接種が始まりました。

このワクチンは新型コロナウイルスが持つたんぱく質の基になるメッセンジャーRNA(mRNA)を人工的に作製したmRNAワクチンで、臨床使用されるのは初めてのことであり、世界中で注目されているワクチンと言っても過言ではないでしょう。これまでのワクチンと比べて、有効性や安全性が高いと期待されています。

このワクチンをヒトに接種すると、mRNAが体内の細胞に取り込まれ、新型コロナウイルスが持つたんぱく質が産生・分泌されて、それが抗原として作用し、ウイルスに対する抗体が作られるわけです。また、ウイルスが感染した細胞に対しても抗体と関係なく免疫を発揮するとされています。効果については約43500人が参加した臨床治験で95%の予防効果があったとのことです。

初めてのタイプのワクチンですから、安全性については少々不安ですが、これらのワクチンが救世主となり、そして先進国だけでなく、世界中で接種されることを願っています。

いきいき生活通信 2021年 1月号