神明クリニック

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コラム(2019年)

12月号アルコール性肝障害について
11月号2019~2020年度インフルエンザワクチンについて
10月号「花粉症薬が保険適用外」について
9月号甲状腺の病気について
8月号CAR-T(カーティー)細胞療法について
7月号高血圧治療ガイドライン2019について
6月号ストレスと心臓病の関係について
5月号ポリファーマシーについて
4月号透析医療について
3月号急性白血病について
2月号人工知能(Artificial intelligence :AI)と医療について
1月号ワクチンについて

アルコール性肝障害について

早いもので、もう12月ですね。12月は街もにぎやかな感じがして、忘年会やクリスマス、それに大晦日とお酒を楽しめるイベントも盛りだくさんで、個人的には大好きです。今年も何とか無事に一年を終えることができそうなので、この12月を楽しみたいと思っています。

さて、私はお酒が結構好きなので、どうしても年末・年始はアルコールの量が増えてしまうのですが、やはり体のことは心配です。アルコールは肝臓で代謝されますので、肝臓に負担がかかります。

アルコールによって起こる肝障害の代表的な病態は

  • ① アルコール性脂肪肝
  • ② アルコール性肝炎
  • ③ アルコール性肝硬変…です。

毎日60g以上のエタノールを長期(5年以上)に摂取していると、これらのアルコール性肝障害が起こるとされていて、日本酒で3合、ビールで1500ml、ワインで600mlに相当します。私は正直に申しますと12月以外はギリギリセーフなのですが、12月は完全にアウトですね。

アルコールの過剰摂取はまずアルコール性脂肪肝を引き起こします。アルコールそのものは脂肪ではありませんが、アルコールの過剰摂取に比例して肝臓での中性脂肪の過剰合成が起こり、その結果、肝細胞内に中性脂肪が蓄積して脂肪肝になります。いわゆる“フォアグラ(アヒルやガチョウの脂肪肝)”の状態なのですが、この状態であれば肝臓は再生能力が強いので、しばらく禁酒すれば元の状態に改善します。

しかし、更に飲酒が続くと、大量飲酒を契機にアルコール性肝炎が発症することがあります。アルコール性肝炎は脂肪肝と違って、病態としてはやや深刻であり、多くの場合、断酒が困難なアルコール依存症の状態であり、食欲不振や倦怠感などの症状がみられ、時には黄疸や腹水がみられたりすることもあります。

また、重症化すると生命の危険性もあります。そして何度もアルコール性肝炎を繰り返すと、やがて肝硬変へと進行します。肝硬変はアルコール性肝障害の最終段階であり、禁酒しなければ高率に死に至るというデータもありますし、肝硬変から肝臓がんが発生することもありますので、要注意です。

肝臓は「沈黙の臓器」と言われるぐらい、症状が現れにくいので、アルコール性肝障害の患者さんは定期的に血液検査や画像検査を受けることが重要です。また、アルコールを楽しむためにも休肝日を設けましょう。

いきいき生活通信 2019年 12月号

2019~2020年度インフルエンザワクチンについて

毎年11月と12月はインフルエンザワクチンの接種時期のため、クリニックも少々慌ただしくなります。ワクチン接種もクリニックの重要な役目だと思っていますので、「年末まであと何週」と指折り数えながら、診療しています。忙しくても年末年始という一年の区切りがあるので、自然と頑張れます。
何事においても「区切り」は重要なことなのでしょうね。

さて、肝心のインフルエンザワクチンですが、今年度は供給不足になることはなさそうですのでご心配なく。また2015年度より近年の流行状況からそれまでの3価から4価のワクチンに変更になったのですが、今年度も4価のワクチンで、即ちA型2種類とB型2種類の抗原が含まれています。
ただし、前年度と比べると、ワクチンを製造するために使用されたウイルス株がB型は全く同じなのですが、A型は2種類ともに同じ系統ではありますが、別の株が使用されています。ですから、ワクチンは昨年と若干違っています。

私は毎シーズン多くのインフルエンザの患者さんを診察していますが、インフルエンザに罹患したことはこの13年間で一回だけです。その時も「何となく風邪っぽいな」と思って念のため検査したところ、B型のインフルエンザだったのですが、これが毎年接種しているワクチンのおかげなのかどうかはわかりません。
実際、インフルエンザワクチンについてはその予防効果について懐疑的な意見もあります。「毎年ワクチンを接種しておいて、今更何を言っているのか」とお叱りを受けるかもしれませんが、十分な科学的データが不足していることも事実です。

特にワクチンによってできる抗体は血中には存在するのですが、鼻粘膜や咽頭粘膜には存在しませんので、感染予防については不十分ではないかともいわれています。ただし、重症化の予防については血中に多量の抗体が存在すれば可能ではないかと考えられていて、そのことを裏付ける臨床報告はいくつもあります。
したがって、インフルエンザワクチンの接種が積極的に推奨されるのは重症化が心配される高齢者や小児、基礎疾患のある患者さんです。

ただ、私はこの地域で診療するようになってから14年目になりますが、あくまで個人的な大ざっぱな印象ではありますが、インフルエンザワクチンは感染予防にも重症化予防にもある程度の効果はあるのではないかと思っています。

いきいき生活通信 2019年 11月号

「花粉症薬が保険適用外」について

この夏、楽しいことがあまりなかったので、「このままではいかん」と思い、8月末に慌てて吉本新喜劇を見に行ってきました。
25年ぶりぐらいになるのですが、当時と構成はよく似ていて、漫才も新喜劇もやっぱり面白くて、特に若手のお笑い芸人の方はすごくエネルギッシュで楽しかったです。また行ってみたいと思いました。

さて、ちょうど新喜劇を見に行った頃に「花粉症薬が保険適用外」というニュースが飛び込んできました。
大きな反響があったので、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、要するに国民皆保険制度を支えている健康保険組合が「このまま医療費が増大していくと財政が厳しくなるので、薬局で購入できる花粉症薬は保険適用外にしてはどうか」と提言しているのです。決定した話ではありません。

実際に医療機関で処方している幾つかの花粉症薬は薬局でも購入することができます。
薬局で購入すると医療保険は使えませんので、3割の負担で済む薬が全額自己負担になります。毎年花粉症の治療を受けている方にとっては、医療機関での受診料等を加味しても負担増になることがあるので、反対でしょうね。
また花粉症薬だけではなく、風邪薬や湿布、保湿剤なども保険適用から外すべきだという意見もあります。

私はこれらの薬を普段からよく処方しています。もしこれが実現すると、目先の損得だけで考えれば医療機関にとっては減収になりますし、患者さんにとっても負担額が増えて困る人も少なくないでしょう。しかし、このままだと毎月健康保健組合などに支払っている保険料を上げざるを得ないかもしれません。

私は国民皆保険制度と介護保険は助け合いの素晴らしい制度だと思っているので、とにかくこれらの制度は維持してほしいと思っています。ただし、保険料が増えることは多くの被保険者にとって容認できないでしょうから、医療機関も患者さんもある程度の痛みは受け入れないといけないかもしれません。

健康保険組合はその他にもいくつかの提言をしています。
例えば、生活習慣病などの治療薬には安価な薬を使うようにしたり、薬の処方が変わらない患者さんは医師の診察を受けなくても繰り返し使用できる処方箋を導入しようとする案などです。

「変化は世の常」だと思いますが、これまでと変わらず必要な医療が安心して受けられる社会であってほしいですね。

いきいき生活通信 2019年 10月号

甲状腺の病気について

夏の甲子園、明石商業、惜しかったですね。日本一まであともう一歩でした。私の家族も周りの人たちも皆、すごく応援していましたし、ちょっと大袈裟ですが、何か明石が一つになった気がしました。今回のような活躍は本当に嬉しいですし、何よりも明石が頑張っているのは励みになりますね。「私も頑張らねば」と思います。

さて、今回は甲状腺の病気についてです。甲状腺は肝臓や肺など他の臓器と比べると誠に目立たない存在ですが、その役割は非常に重要で、食物中(主に海藻類)のヨウ素を原料にして甲状腺ホルモンを産生しています。即ち甲状腺はホルモン産生臓器なのです。甲状腺から分泌された甲状腺ホルモンは全身の細胞へと運ばれ、新陳代謝を促進します。“代謝を促進する”ということは大雑把に言うと、“よく食べてよく働く”みたいな感じなのですが、そもそも細胞は主に酸素と糖からエネルギー(ATP)を産生していて、そしてそのエネルギーを使って体に必要な物質を作っています。

甲状腺ホルモンが“代謝を促進する”ということは細胞内でエネルギーがたくさん産生され、そのエネルギーを使って体に必要な物質がどんどん作られるということです。したがって、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると必要以上にエネルギーが産生されて、常に活動している(元気すぎる)状態となり、症状としては体重減少や発汗、頻脈、眼球突出などの症状がみられます。代表的な病気がバセドウ病です。

逆に甲状腺ホルモンが低下すると活動を休止している(元気がない)状態となり、症状としては全身倦怠感や低体温、気力の低下、むくみなどの症状がみられます。代表的な病気が橋本病です。バセドウ病も橋本病も甲状腺が腫大することが多く、いずれも免疫異常が関係していて、バセドウ病では甲状腺を刺激する抗体、橋本病では甲状腺を破壊する抗体がそれぞれ体の中で作られることで、病気を引き起こします。

甲状腺ホルモンやこれらの抗体は血液検査で簡単に調べられます。また、甲状腺には腫瘍ができることも少なくありません。しかしほとんどの場合は良性で、たとえ悪性だったとしても、一部のタイプを除いて予後良好ですので、必要以上に心配することはありません。腫瘍に関してはエコー検査が非常に有用ですので、気になる方は調べてもらって下さい。以上、甲状腺の病気についてのお話でした。

いきいき生活通信 2019年 9月号

CAR-T(カーティー)細胞療法について

今回は「医療もついにここまで来たか」と思ってしまう治療法をご紹介します。

ちょっとイメージしてください。
あなたが難治性のがんを患ったとしましょう。もはや有効な治療法はありません。余命数か月。
でも何とかしてがん細胞をやっつけたい。
そこでまず、あなたの血液を採取してリンパ球(T細胞)を集め、T細胞に“ある遺伝子”を導入します。そしてそのT細胞をあなたに戻すと、そのT細胞ががん細胞を認識し、がん細胞を特異的にやっつけるようになります。またがん細胞をやっつけるようになったT細胞はどんどん増えて、さらに攻撃を続けることで、やがてがんは消滅するのです。

こんな夢のような治療法がこの5月に保険適応になりました。それがCAR-T細胞療法(遺伝子導入T細胞療法)です。
そもそもヒトの体には自身の体の中にできたがん細胞をやっつける免疫(腫瘍免疫)が備わっていて、主にT細胞がこの役割を担っています。この腫瘍免疫をどうにかしてがんの治療に生かしたいと随分前から研究されていました。
そこでT細胞をより強力な免疫細胞にすべく、

  • (1) T細胞が、がん細胞を特異的に認識すること
  • (2) 認識したそのがん細胞を攻撃すること
  • (3) さらに自己増殖することでその攻撃を継続すること

これらの特徴を発揮できるように改良を重ねられた“ある遺伝子“が、ようやく日本でも臨床使用されるようになりました。

“ある遺伝子”にはいくつかの遺伝子が持つ遺伝情報が組み合わせられており、キメラ抗原受容体(CAR:chimeric antigen receptor)遺伝子と呼ばれています。
この遺伝子組み換え技術によって作製された人工遺伝子をT細胞に遺伝子導入したものがCAR-T細胞であり、この細胞を使った治療がCAR-T細胞療法なのです。

今回、日本で使用が認められたのは、「キムリア」という薬(CAR-T細胞)で、一部の難治性白血病とリンパ腫に対して信じ難い効果をもたらしています。
ちなみにCARのAすなわちantigen(抗原)の部分を別の抗原に変えれば、理論的にはその抗原を発現している別のがんに対して効果を発揮する可能性があり、そういう点では非常に発展性のある治療法と言えます。実際に、その他のがんに対しても臨床研究が進行中です。

副作用や効果などまだまだ解決すべき問題はあるようですが、おそらく近い将来、遺伝子導入細胞を使った治療が本格化するのではないだろうかと、そんな予感がしています。

いきいき生活通信 2019年 8月号

高血圧治療ガイドライン2019について

最近、患者さんから「血圧の目標値が厳しくなったみたいですね」と言われることが何度かありました。皆さんよくご存知のようで、この春、日本高血圧学会から「高血圧治療ガイドライン2019」が発表されたのですが、その降圧目標が結構厳しくて、正直私自身もちょっとびっくりしているくらいです。

具体的には診察室で測定する血圧が130/80mmHg未満、家庭血圧では125/75mmHg未満となっていて、糖尿病や慢性腎臓病などの患者さんも同様です。また75歳以上の高齢者の目標値も140/90mmHg未満と厳しくなりました。つい最近まで「高齢者は血圧を下げすぎても良くない」と言われていたんですけどね。

なぜ、厳しくなったのか?もちろん理由はあります。日本人を対象とした介入試験において、厳格に治療をした群とこれまでの通常治療をした群を比較してみたところ、厳格に治療をした群の方が脳卒中や心筋梗塞などの発症が少なかったという研究結果がいくつかみられたからです。
また血圧が120/80mmHgを越えてくると、血圧が上昇すればするほど、脳卒中や心筋梗塞などで死亡するリスクが高まることも示されています。

私の血圧はだいたい130/80mmHgぐらいで、これまで血圧については全く心配していなかったのですが、このガイドラインに従えば、私もそろそろ注意しないといけないらしく、生活習慣を修正する必要があります。まあ、生活習慣についてはこのガイドラインに関係なく、普段から修正すべき点は多々あると思っているのですが。

さてこのガイドライン、立派なデータに基づいているのは理解できるし、私自身も納得しようとしているのですが、これまで外来患者さんに「ある程度下がっていれば大丈夫ですよ」と結構甘く指導をしてきた手前、正直「困ったな」と思っています。このような甘い考え方は「臨床イナーシャ(臨床的な惰性)」と言われていて、治療目標が達成できていないのに治療が適切に強化されていないことと定義されており、臨床イナーシャも高血圧治療が不十分である要因と指摘されています。

ただ、外来で診る患者さんは実際のところ、体質や性格、そして生活環境や家庭環境などが随分違っていたりします。皆一律に「血圧は130/80mmHg以下(75歳以上は140/90mmHg以下)に」と言われても、実際のところなかなか難しいんですよね。でもまあ、これからはもうちょっと厳しくしようかなと思っています。

いきいき生活通信 2019年 7月号

ストレスと心臓病の関係について

4月の終わりに明石公園で狂言と能を観てきました。
毎年秋に催されているのですが、今年は明石市制100年、明石城築城400年を記念して特別に春にも開催されたようです。
狂言も能も生(なま)で観るのは初めてで、全くの素人なのですが、想像していたよりも本当に素晴らしかったです。
狂言はやはり滑稽で、役者さんのせりふの掛け合いが面白くて、楽しい気分になりました。そして能は役者さんの技量もさることながら、舞(まい)の動き、謡(うたい)の声楽、そして囃子(はやし)の演奏が一体となって、まさに独特の世界へ引き込まれた感覚がありました。
確かに心に響く“何か”を感じたのですが、それが何かはうまく言えません。もっとはっきりと「それが何であるのか」を知りたいので、また見に行こうと思っています。

さて、普段外来で皆さんのお話を聞いていると誠に世の中にはいろんなストレスがあって、またストレスによる影響も個人差が大きいなと感じています。私も常にいろんなストレスを感じていますし、若い頃より今の方が圧倒的にストレスは多いと思います。ですから安静にしているのにドキドキしたり、呼吸困難を自覚したことも何度かあります。

これは心臓神経症の症状であり、心臓は別段悪くないのですが、不安や緊張感などのストレスが原因で起こります。皆さんも経験があるでしょう。
ストレスとうまく付き合っていくことができれば良いのですが、そんなに簡単にはいきません。私の場合、何か良いこと(例えば阪神が勝ったとか)が一つでもあれば割合うまくいくのですが。

一方、ストレスが原因で実際に心臓が悪くなることも実は少なくありません。抑うつがあると心不全になりやすいとか、逆に心不全の患者さんで抑うつの症状がよくみられるとの報告もあります。急性心筋梗塞についても同様のことが指摘されています。
また、災害によるストレスも心臓病への影響がみられることが阪神・淡路および東日本大震災後の研究で明らかになってきています。

その人にとって過度のストレスは交感神経の不要な緊張を招き、アドレナリンなどのホルモンが大量に分泌されることとなり、その結果血圧は上昇し、心臓の負担も増大することで心臓病の悪化へとつながると考えられています。

今の社会は何でもかんでもスピードや効率が重視され過ぎていて、私自身正直ちょっとしんどく感じることがあります。それに比べて“能”ってすごくゆっくりなんですよ。

いきいき生活通信 2019年 6月号

ポリファーマシーについて

大型連休も終わってしまいましたね。最近、連休の間はどうしてもアルコールの摂取量が増えてしまって、だから体調はむしろ悪いことが多いのですが、でも連休がないほうが良いかというとそうでもなくて、やはり連休は楽しみですね。次の連休は?二か月も先ですか…。ちょっと気合を入れて仕事頑張ります。

さて、今回は以前から問題となっている「ポリファーマシー」についてお話します。
ポリファーマシーとは直訳すると複数(ポリ)の薬局(ファーマシー)という意味になるのですが、単に複数の薬局からいろんな薬が処方されているという意味ではありません。その薬が患者さんにとって必要で、適正な処方であれば問題ないのですが、

  • ① 薬どうしが相互作用を起こす
  • ② 同じような成分の薬が重複している
  • ③ その薬の必要性が非常に少ないと考えられる
  • ④ 間違った服用をする
  • ⑤ たくさんの残薬がみられる

など、このような問題のある状態をポリファーマシーと呼称しています。

高齢者の場合、複数の疾患を抱えていることが多く、必然的に服用する薬の数も増える傾向にあります。したがって高齢者はポリファーマシーの状態になりやすく、特に今問題となっているのは、高齢者のポリファーマシーです。

上記の①②④は患者さん自身の健康に対して有害事象となり得ますし、③⑤は医療費の増大に拍車をかけることとなります。
私自身にも当てはまることなのですが、複数の医療機関で処方されているのに同じような胃薬や鎮痛剤、安定剤を処方してしまったり、薬の副作用に気付かずに新たな病気と判断してしまい、薬を更に増やしてしまう(処方カスケード)といったことがあります。

これらのポリファーマシーに対して、国も対策を考えているようで、適正な減薬を勧める指針を打ち出しています。また当然のことながら調剤薬局および薬剤師さんの役割は重大で、日々の診療において薬剤師さんからの情報提供やアドバイスに助けられることがしょっちゅうあります。
特に現在推進されている制度のひとつが、「かかりつけ薬剤師」として患者さんの使用薬局を一本化させることであり、ポリファーマシーの問題解決に対して非常に効果があるのではないかと思っています。

いきいき生活通信 2019年 5月号

透析医療について

いよいよ平成の時代も幕を閉じようとしています。大学生の頃に家庭教師先で見た昭和天皇崩御のニュースは今も印象深く残っていて、私にとっては元号が変わるだけなのに、何か新しい時代の幕開けを確かに実感した瞬間でした。
その時から今日に至るまで、平成の時代にはいろんなことがありました。社会にでて働き、人並に家庭を持ち、子供も授かりました。また身近な人の死を初めて経験し、「自分もいつかは死ぬのだ」と意識するようになりました。そして次の時代では老いていく人生をできれば楽しみたいなと思っています。

さて、つい最近のことですが、誠に残念なニュースがありました。透析中の44歳の女性患者さんに透析中止の選択肢を提示し、実際に亡くなられたという内容です。担当医の先生は「透析治療を受けない権利を認めるべきである」、そして院長先生は「選択肢は必要で、論理的だ」と主張しています。

私は透析医療に関わってもう17年目になります。特にこの12年間はほぼ毎日透析患者さんを診察しています。日々の透析を辛く感じている患者さんももちろんおられますし、一方、外来で透析の話をすると「透析するぐらいなら死んでもいい」とおっしゃる患者さんもおられます。また最近は透析開始年齢も高齢化しており、「こんな状態で透析を開始しても良いのだろうか」と思ったこともありました。ですから透析開始時に透析をしない選択肢を提示することは場合によっては必要なことだと思います。ただし“その場合”というのが重要で、透析医学会が2014年のガイドラインで示しているのは以下の通りです。

  • ① 透析を安全に施行することが困難で、患者の生命を著しく損なう危険がある場合
  • ② 患者の状態が極めて不良である場合

私は医療サイドが透析をしない選択肢を提示するのはこの場合だけで十分だと思います。
そして透析を開始したけれども「透析が辛くてもう透析をやめたい」と患者さんが訴えたときには十分に話し合って決めればよいわけで、私もこれまでそのような経験が2度ありました。終末期でもないのに「透析をやめたい」と言われて、途中で透析を見合わせましたが、いずれもその後呼吸苦が強くなり、患者さんの希望で透析を再開したことがあります。

今回の一連の報道を見聞きして私から皆さんに伝えたいことは、透析は皆さんが思っているほど辛い治療ではないということ、そして透析患者さんが受けている治療はほとんどの場合、いわゆる“延命治療”ではないということを只々(ただただ)分かって頂きたいです。

いきいき生活通信 2019年 4月号

急性白血病について

とりあえず内科医になろうと思ったのが大学を卒業する数か月前でした。本当に「とりあえず」でした。そして内科医になって4年程経った頃に間違いなく血液内科医になろうと決断しました。本当に「揺るぎない」決断でした。理由は研修先の病院でよく血液疾患を診ていたことも関係しているのですが、自分自身も血液学に少なからず興味を持ったこと、そして血液患者さんを目の当たりにして、嬉しい思いや悔しい思いを何度も経験したことが大きかったと思います。

そんなわけで医者になって5年目頃から10年目頃までは血液疾患を中心に診療していました。ずっと血液内科医を続けるつもりだったのですが、どういうわけか今は血液疾患を診ることはほとんどなく、内科全般を診る町医者をしています。こちらの方が自分に向いていたのでしょうね。

ただ先日、競泳の池江璃花子選手が急性白血病であることを公表したときには、他人事のようには思えず、どうも落ち着かない気分になりました。私自身、何度か苦い思いをしてきたのが白血病だからです。

白血病では幼若な血液細胞が成熟した白血球に分化する過程でがん化し、異常増殖します。血液細胞が作られる骨髄内はこの白血病細胞で占められ、そのため正常の血液細胞はほとんど作られなくなり、正常の白血球や赤血球、血小板が減少します。急性白血病では文字通り急性に経過するため、未治療なら数か月の命です。発見が遅すぎると感染や出血などを併発し、予後にも大きく影響します。

そういう意味では今回の池江選手の場合は発見が遅れなくて良かったと思います。ただ、急性白血病には他の固形がん(胃がんや肺がんなど)のように病気の広がりを表すステージ分類はなく、「早期発見」イコール「予後良好」とはなりません。

急性白血病は大まかに骨髄性とリンパ性に分けられ(成人では骨髄性が80%以上)、また形態によって更に細分化されています。私が医者になった頃はこの形態分類がとにかく重要だったのですが、今は染色体異常や遺伝子の変異による分類が中心になってきており、予後因子として非常に重要視されています。予後良好群に分類されれば治癒も十分期待できますし、そうでなければ骨髄移植を含めたより強力な治療が検討されることになります。

いずれにしろ急性白血病はもう「不治の病」ではありませんので、池江選手を含め白血病と闘っている患者さん、元血液内科医として陰ながら応援しています。

いきいき生活通信 2019年 3月号

人工知能(Artificial intelligence :AI)と医療について

最近よくAIという言葉を耳にしますね。人間の脳と同じような機能をもつコンピューター技術のことで、アナログ人間だと自認している私にとって、AIはできれば関わりたくないのですが、どうもそういうわけにはいかなくなってきていて、医療の分野にもこれからどんどんAIの技術が導入されそうです。

近年、AIは驚異的な速さで進歩していて、チェスも囲碁も将棋も人間が勝つことは不可能なレベルになっています。しかもますます強くなっていて、人ではなくAIによる世界大会も行われています。車も自動運転の時代が近づいてきていて、いったいこの先どんな世の中になっていくのでしょうか。
皮肉なものでスマートフォンに夢中になっていた我が子達を随分𠮟ってきた私ですが、そのスマートフォンをほとんど使いこなすことができず、使いこなせて当たり前の時代についていけるのか少々不安です。

さて、AIが実際どのように医療に関わっているかというと、まず画像解析の分野において期待が大きく、放射線画像や皮膚科、眼科領域など視覚で判別する画像はすべて対象になっていて、いずれ画像診断はAIが行うことになりそうです。

AIはディープラーニング(深層学習)といわれる機械学習の技術に支えられていて、例えばコンピューターに大量の画像データを読み込ませ、病気の特徴や異常あるいは正常である所見を認識させることでコンピューター自身が学習し、病気を見つけ出すことができるようになるのです。そして今まさにその診断精度を世界中で競い合っている状況です。
また画像診断以外にも、患者さんの遺伝子情報を入力すると、がんに関連した遺伝子異常をすばやく見つけ出し、その異常を標的とした治療薬まで指示してくれることが可能になっています。
その他、介護ロボットや手術支援ロボットの開発も進んでいます。

また、近い将来病気によってはわざわざ病院に行かなくとも、スマートフォンで症状をデータ送信するだけで、診断および処方箋データが得られるようになるかもしれません。
思えば、以前と比べて医療に関連した情報は非常に多く、複雑化しています。これらの情報を上手に効率良く利用することが重要になってきていて、これからの医療はこの情報通信技術やAIを抜きには考えられません。

いかにAIと協働し、そしてAIを活用できるかが医師の能力にも反映される時代になりそうです。
まあ、ちょっと私も何とか頑張ろうと思っています。

いきいき生活通信 2019年 2月号

ワクチンについて

新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、インフルエンザの流行の時期となりましたが、もうワクチン接種は済みましたか。よく皆さんから「インフルエンザのワクチンって効果あるの?」と聞かれるのですが、ワクチンを接種したほうが、インフルエンザを発症する確率とその合併症を軽減できることは大規模な研究によって明らかになっていますので、効果は間違いなくあります。ただしその人の体質や年度によって効果にバラツキがありますので、過信は禁物です。

さて、現代社会はこのワクチンがなければ生きていけないと思えるぐらい、いろんなワクチンが登場しています。その始まりは1796年までさかのぼります。最初に開発されたワクチンは天然痘のワクチンで、20世紀だけでも全世界で3億人の人が天然痘で亡くなったそうですが、ワクチンのおかげで1977年を最後に患者の発生はなく、1980年にはWHOから根絶宣言が出されました。凄いことですね。世界中でワクチン接種に取り組めばウイルスを根絶できるのですね。ワクチンの効果を示す最も良い例かもしれません。天然痘のワクチンの発明以来、数々のワクチンが開発されています。

私が子供の頃に接種したワクチンは結核をはじめ数種類ほどだったのですが、ここ数年で一気に増えて、今の子供達は全部で8種類のワクチンが定期接種となっていて、今後まだ増えると思われます。更に大人の場合も肺炎球菌ワクチンや最近では帯状疱疹予防のために水痘ワクチンが使用できるようになっています。

また、麻疹や風疹の抗体が不十分である大人が少なくなく、一時的な流行の要因となっているため、これらのワクチンを接種する人も増えていています。特に風疹ワクチンについては今春から感染リスクが高いとされる39~56歳の男性を対象に3年間原則無料で接種できる予定です。

このように最近になっていろんなワクチンが接種されるようになったのですが、これには理由があって、実は日本ではワクチンの副作用が大きな問題となった歴史があり、ワクチン接種に対して消極的になっていた時期があったためです。欧米では20年前から積極的にワクチンを接種していて、日本が「ワクチン後進国」と呼ばれていた所以(ゆえん)です。

ただ、ワクチンについてはやはり副作用の観点から心配する声があるのも事実です。私自身も生命の危険性がほとんどないウイルスに関してはそれほど神経質にならずに、持病のある人中心に接種すればよく、ウイルスとの共存という考え方も重要ではないかと考えていた時期もありましたが、「現在のグローバル社会の下ではワクチン後進国ではダメで、欧米と足並みをそろえる必要があるのかな」と思っております。

いきいき生活通信 2019年 1月号