神明クリニック

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コラム(2020年)

12月号バレット食道について
11月号ゲノム編集について
10月号2020/2021年度インフルエンザワクチンについて
9月号死ぬ権利について
8月号3度目の尿管結石について
7月号フレイル・ロコモ・サルコペニアについて
6月号介護保険制度の将来について
5月号成人の気管支喘息について
4月号新型コロナウイルスによるパンデミック感染症について
3月号オンライン診療について
2月号新型コロナウイルス感染症について
1月号ハンセン病について

バレット食道について

大変な一年がようやく終わりに近づいています。辛い思いをされた方や今も苦しい状況が続いている方もいるでしょう。新型コロナウイルスとの共存は来年も続きそうですが、明けない夜はありません。何とかそれまでみんなで頑張り抜きましょう。

さて、今回はバレット食道についてです。
胃食道逆流症はコマーシャルのおかげで、すっかりなじみのある疾患になりました。実際に患者さんも多くて、3~4人に一人は胃食道逆流症と言われていて、外来で治療をすることもよくあります。

その代表的な症状は胸やけや呑酸(のどや口の中がすっぱく感じること)などで、胃液や十二指腸液が食道まで逆流することが原因です。胃酸の分泌を抑制する薬がよく効くので、わざわざ内視鏡検査をしなくとも、症状と薬の効き目で胃食道逆流症と診断(診断的治療)することも少なくありません。
では、「ずっと内視鏡検査をしなくても大丈夫か」というとそれは違います。

胃食道逆流症では、食道と胃の境界の食道側の粘膜が胃酸などによって傷害を受けるのですが、やがてその傷害を受けた粘膜が食道から胃の粘膜のように変化していくことがあります。不思議ですね。胃酸にさらされ続けると食道粘膜が胃粘膜のように変化してしまうのです。これをバレット粘膜と言って、細胞の形態も食道の扁平上皮から胃の円柱上皮のように変化してしまうのです。

内視鏡で見るとその変化は非常に分かりやすくて、一目瞭然です。そしてバレット粘膜が全周性にある程度広がると(3㎝以上)、バレット食道と呼ばれていて、このバレット食道が少々問題なのです。ちなみに1950年代にバレットさんが報告した疾患なので、バレット食道と呼ばれています。

さて、どう問題かというと、食道の扁平上皮から胃の円柱上皮へと変化した細胞はさらに変化を重ねて、がん細胞へと移行することがあるからです。そしてこのタイプの食道がん(バレット腺がん)は通常の食道がん(扁平上皮がん)とは異質なもので、原因やがん化の機序、そして予後も異なると考えられています。予後が良くないという報告もありますので、胃食道逆流症の患者さんはやはり内視鏡検査を時々受けておいたほうが良いと思います。

バレット腺がんはこれまで欧米の白人に多くみられていましたが、食事の欧米化や高齢化のため日本でも増えていく可能性はあると考えられていますので、ちょっと皆さんも覚えておいて下さい。

いきいき生活通信 2020年 12月号

ゲノム編集について

人は皆、父親と母親からそれぞれ約2万個ずつの遺伝子を受け継いでいます。そしてその遺伝子のセットがゲノムであり、誰もが父親からのゲノムと母親からのゲノムをもっているわけです。
今年のノーベル化学賞にそのゲノムを編集する技術“クリスパー・キャス9”の基礎研究を行った二人の女性が選ばれました。

クリスパーもキャスも略語で、クリスパーは特定の遺伝子を認識することができ、キャス9はその遺伝子を切断するハサミの役割を担っています。これらのシステムは元々細菌がウイルスなどの侵入から身を守るために獲得した免疫機構であり、そのシステムを応用してどの遺伝子でも認識して切断できるようにしたのが、この画期的なゲノム編集技術です。

通常、遺伝子は切断されるとすぐに元通りに修復されるのですが、時に完全に修復されずに変異が残ることがあります。自然界における突然変異とは、まさにそういうことなのですが、このゲノム編集では何度も標的遺伝子を切断することで、比較的簡単にその遺伝子に人為的な変異を起こさせることができます。
その遺伝子の変異によってどのような形質変化がもたらされるかは、予想できないところもあるのですが、それが目的とした変化や有益な変化であれば良いわけです。
そしてそのゲノム編集ですが、私が思っている以上に今、医療だけでなく、農業や工業などいろんな分野でその活用が期待されているようです。

例えば、害虫に強い農作物などがこれまで品種改良や遺伝子組み換え技術などによって作られてきたのですが、非常に手間とコストがかかる大変な作業でした。しかし、このゲノム編集の技術を使えば、その時間を大幅に短縮することができます。医療においても、遺伝子の改変が容易になるということは、遺伝子治療をはじめ、さまざまな遺伝性疾患に幅広く応用できると考えられます。

ただし、いくつかの問題点も指摘されています。
ゲノム編集による遺伝子の切断が意図せぬ部位で起こる危険性や人為的な変異を起こさせることによる生物種全体への影響、そしてヒトの生殖細胞に適用することで“デザイナーズ・ベイビー”すなわち親が望むような赤ちゃんを産んでよいのかという倫理的な問題などです。

食糧危機を心配することなく、遺伝病も克服する時代が到来するのは喜ばしいことだと思うのですが、私自身は機械をいじるかのように遺伝子を扱うことにやはり不安があります。
偉大なる自然の摂理に反している気がしないでもないのです。

いきいき生活通信 2020年 11月号

2020/2021年度インフルエンザワクチンについて

毎シーズン10人に1人(1000万人以上)が感染するインフルエンザですが、昨シーズンは例年と比べて極端に少なかったです。理由としては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のための感染予防が功を奏した可能性や暖冬で湿度が高かったことなどが挙げられていますが、はっきりしたことはわかっていません。流行したインフルエンザウイルスも、2009年に新型インフルエンザとして流行したA型タイプ(H1N1)の1種類が9割以上を占めていて、すなわちその他のタイプは、何らかの理由によりあまり流行しなかったということになります。

個人的にはCOVID-19そのものが、インフルエンザの流行に影響を与えたのではないかと思っているのですが、根拠はなくて、何となくそう思っているだけです。

さて、今シーズンはどうなることやら……。両方が流行すると大変なことになりそうなので、「とりあえずインフルエンザワクチンは早めに接種しておこう」という方が多いように思います。

ワクチンの供給量については約6300万人分が見込めるようで、ここ数年で最大の供給量になるそうですが、それでも不足する可能性があるため、政府も高齢者や持病のある方、小児、医療従事者から優先的に接種できるよう呼び掛けています。

今シーズンのワクチンについてですが、これまでと同様4種類の抗原(A型2種類とB型2種類)に対応していますが、その中の3種類の抗原で、ワクチン製造のために使用したウイルス株が変更されています。インフルエンザウイルスは抗原が同じでも、毎年若干変異(マイナーチェンジ)するため、前年と同じワクチンでは十分な効果が期待できず、その変異に対応していると思われるウイルス株を選んで、毎年新たに製造されています。毎年ワクチンを接種する理由もそのためであり、したがって、ワクチンの発病予防効果は年度によってバラツキがあるわけですが、それでもだいたい60%前後と言われています(乳幼児は20~60%)。

また、発病しても症状が軽く済んだり、重症化を防ぐことに関しては、一定の効果があるとされています。接種時期については、ワクチンの効果持続期間が3~5か月、インフルエンザの流行時期が12~4月で、流行のピークが1月中旬~3月上旬であることを考えると、12月中までに接種することが望ましいでしょう。最後に神頼み、インフルエンザとCOVID-19のダブルパンチだけは勘弁して下さい。

いきいき生活通信 2020年 10月号

死ぬ権利について

徐々に手足や体が動かせなくなり、そしてものを飲み込んだり、喋ったりできなくなって、やがて呼吸までもできなくて、人工呼吸器を装着するようになり、でも頭はしっかりしていて、痛みも感じられ、視力・聴力も問題なくて、目の動きだけで何とか周囲とコミュニケーションをとれる、そんな状態が続いていくことを想像してみて下さい。
頑張って生きていこうと思えるのか、それとも……。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気は、典型的な場合、数年で上記のような経過を辿っていきます。そして一部を除いて遺伝性はなく、すなわち誰にでも起こり得る原因不明の難病で、物理学者のホーキング博士もALSを患っていたことは有名な話ですね。脳内で筋肉を動かそうとする意志は起こるのですが、その信号を筋肉まで伝える運動神経細胞に問題が起こるため、筋肉は収縮できなくなるのです。

さて、この7月にALSで闘病中の患者さんに依頼され、薬物を投与し殺害したとして、嘱託殺人の疑いで医師二人が逮捕されました。患者さんとは全く面識のない医師であったことが今回の事件の特異的な部分でもあるのですが、患者さんは自殺ほう助が認められているスイスに渡ることを希望されていた時期もあったようです。

医師が薬物などを投与して、終末期などの患者さんを死に至らしめることは「積極的安楽死」と言われていて、日本では

  • ① 耐え難い肉体的苦痛
  • ② 患者の明確な意思表示
  • ③ 回復不可能な死期が迫っている
  • ④ 他に代替手段がない

これらの4条件を満たしたときのみ、積極的安楽死が許容されている状況です。

今回のケースでは明らかに③の条件は満たしていません。終末期ではないわけですが、しかし逆説的に考えれば、ALSの病苦や24時間体制の介護が年余にわたって続くということでもあり、私がALSの患者さんの安楽死すなわち「死ぬ権利」に少し共感を覚えるのはそのためかもしれません。
実際に、人工呼吸器の装着を拒否されるALSの患者さんも少なくありません。

一方、前向きな人生を送っているALSの患者さんも、たくさんいらっしゃいます。私はこれまでALSの患者さんの主治医になったことはありませんが、もし私がALSを発症したら、やはり頑張って生きていたいし、そう思えるような世の中であって欲しいです。

ただし、不安も大いにあるので、念のため、人工呼吸器を装着した後も自分の意志でいつでも死を選択できるように「死ぬ権利」は認めて欲しいかなと思っています。

いきいき生活通信 2020年 9月号

3度目の尿管結石について

6月のある木曜日の午前1時頃でした。右腰あたりが急にジワリと痛くなってきて、程なくして、まさに悶絶状態となりました。いずれ来るとは思っていたので、「とうとう来たか、3度目の尿管結石」といった感じで、比較的冷静でした。

まずは鎮痛剤を服用して、大量の水を飲んで、夜中にぴょんぴょんと飛び跳ねてみました。「これで大丈夫なはずだ」と、日頃患者さんに説明していた通りのことを自分でもやってみて、石が出るのをひたすら待ったわけですが、結局朝まで排出されることはなく、一睡もできずに、痛みを抱えたままの診療となりました。何とか無事診療を終え、CTで確認してみると、3mm程度の石が尿をせき止めるように右尿管の途中にありました。「小さな石なので間違いなく出るだろう」と排出を促す薬などを服用し始め、「これで大丈夫なはずだ」と高をくくっていました。

しかし悲劇はそのあとに待っていて、尿が腎臓である程度作られ、尿管の圧が上がると痛みが起こるようで、1時間毎に強い痛みがやって来ました。圧が上がると少し尿が流れるのか、10分程度で痛みは軽減するのですが、それでも毎日1時間毎の痛みはつらかったです。1週間近く経ったころに、ちょっと頑張ってみようと、2時間で2.5Lの水分を摂取し、そのあと縄跳びを数百回やってみました。「これで大丈夫なはずだ」と半信半疑ながら、石が出るのを待ちました。石は確認できませんでしたが、気付かないうちに出たみたいで、痛みはその後次第に感じなくなりました。

さて、例外もありますが、尿管結石の患者さんの特徴として、肥満傾向、運動不足、動物性の脂肪・タンパク質の過剰摂取、アルコールの過剰摂取、夜中心の食生活で就寝までの時間が短いなどが挙げられます。これらは動脈硬化の要因にもなるのですが、実は尿管結石と動脈硬化のあいだには疫学的背景や発症メカニズムに類似点が多いことが報告されています。したがって、尿管結石を予防することは、将来的に脳卒中や心筋梗塞などの予防にもつながる可能性があるわけです。

ちなみに私は尿管結石の患者さんの特徴を完璧に満たしています。尿管結石の患者さんの気持ちが痛いほどよくわかる医者だと思うのですが、さすがにダメですよね。3度の尿管結石を経験して、私も少し思うところがありました。もう尿管結石は懲り懲りなので、毎日の晩酌を止め、今は時々飲むくらいにしています。

いきいき生活通信 2020年 8月号

フレイル・ロコモ・サルコペニアについて

コロナ禍はまるで世界規模の大災害。これから世界はどう変わっていくのだろか。平和な世の中であってほしいですね。さて、今回はフレイル、ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)、サルコペニアについて違いが分かるように頑張って説明してみます。

皆さんもこれらの言葉を一度は耳にしたことがあると思うのですが、その違い、お分かりでしょうか?実は私はちょっとごっちゃになっていて、そんな訳で今回はこのタイトルにしました。
この三つの病態はいずれも加齢が関与していて、オーバーラップしている部分も少なくありません。ですから、似たところが多いわけですが、それぞれに特徴的なところもあります。

まずフレイルは
①体重減少
②筋力低下
③疲労感
④歩行速度低下
⑤低活動性

…のうち三つ以上当てはまればフレイルと診断されます。

ただし、この診断基準に該当するような身体的な問題(身体的フレイル)だけでなく、認知症やうつなどの精神的な問題(精神的フレイル)や独居や経済的困窮などの社会的な問題(社会的フレイル)も含んでいて、要するに介護が必要になる手前の状態を幅広く指しているのが特徴です。

一方、ロコモは骨や関節、筋肉などの運動器の衰えのため、立ったり、歩いたりする移動機能が低下した状態で、立ち上がりテストや25項目(身体の状態や生活状況)の質問に答えることで判定されます。身体的フレイルとかなり重なりますが、より整形外科的な要素が強く、変形性膝関節症や脊柱管狭窄症、骨粗鬆症などの疾患を早期に発見し介入することで、健康寿命を延ばそうとしていることが特徴です。

そしてサルコペニアですが、大きな特徴は筋肉に主眼を置いた概念であり、骨格筋量の減少とそれに伴う身体機能低下を含めた状態を指します。機能低下は握力や歩行速度で、筋肉量は下腿周囲長などで評価します。寝たきりや嚥下障害などと関連が強く、また加齢だけでなく、慢性疾患(がん、心不全、腎不全など)が影響することも重要です。

フレイルやロコモ、サルコペニアは共通点が多くて、混乱してしまいますが、それぞれ視点が違っているわけです。簡単にまとめてみると、介護が必要になる手前の状態を幅広く表していているのがフレイル、主に整形外科疾患によって運動機能が低下した状態であるのがロコモ、そして筋肉量の減少によって身体機能が低下した状態であるのがサルコペニアということになります。ちょっとわかりにくくて申し訳ありません。

いきいき生活通信 2020年 7月号

介護保険制度の将来について

「私が年老いて介護が必要になったら、妻が何とかしてくれるのだろう」と漠然と思っていましたが、よく考えてみると、妻の方が先に介護が必要になるかもしれないし、また子供達の世話になることは今のところイメージできないし、さて、私の老後はどうなるのだろうか。

お嫁さんや家族だけではなく、社会全体で高齢者を支えようという構想のもとに始まった介護保険制度も今年で20年が経ちました。「介護の社会化」を掲げた制度で、私自身は大変良い制度だと思っています。しかし、その将来性については非常に多くの課題があるようです。

当初は40歳以上の人が保険料を納めて、集めた保険料と公費で原則65歳以上の人が1割の自己負担金を支払って、必要な介護サービスを受けていました。しかし、想定していた以上に介護サービスの量が増えてきたため、財源が厳しくなり、保険料を上げたり、自己負担を所得に応じて1割~3割に増やしたり、また最近では介護サービスのなかで生活援助(掃除、洗濯、食事など)を自己負担にしようとする動きもみられたりと、あの手この手を使って何とか制度を維持しようとしている状況です。そして、これからは少子高齢化の影響で、更に大変な状況が待ち受けています。

例えば今から20年後の2040年頃には、高齢化のため65歳以上の高齢者の数が最多となり、しかも非婚の影響で支える家族がいない高齢者が増加します。すなわち必要な介護サービスの量はますます増えていきます。一方、少子化の影響で保険料を納める40歳以上の人口は減少していきますので、集まる保険料は減っていくことになります。したがって、介護保険制度の将来は非常に厳しく、個人的にはもっと大胆でわかりやすい改正が必要だと思っています。

反論もあるかと思いますが、ちょっとつぶやきます。

現在、高齢者の線引きは65歳ですが、70歳の方がしっくりくると思うし、70歳までは皆が安心して働ける社会にしてほしい。年金開始年齢も段階的に引き上げて、70歳にする。また介護保険料も少額で良いので、現行の40歳ではなく、30歳ぐらいから納めるようにしてみては。

そして、声を大にして言いたいのは、携帯電話の契約みたいに、年々複雑になっていく介護制度の仕組みはわかりにくくて、うんざりします。きめ細かいことも大事かもしれませんが、もっと“スパッと”シンプルにしてほしい。
そうでないと、私自身もさっぱり理解できなくなりそうなので。

いきいき生活通信 2020年 6月号

成人の気管支喘息について

この原稿を書き終えたのは4月22日です。まだまだ新型コロナウイルス感染症の感染収束の見通しが立たない状況ですが、苦しい時だからこそ、少しでも心の中のどこかにあった“温かい気持ち”を思い出して、頑張ろうと思います。

今回は成人の気管支喘息についてお話しします。
気管支喘息は小児喘息と言われているように、子供によくみられる疾患なのですが、実は大人の患者さんも最近増えています。日常の診療でも高齢になって初めて喘息を発症したという患者さんを診ることが少なくありません。

気管支喘息は何らかの刺激によって気管支が狭くなる病気ですが、気管支が狭くなると当然のことながら呼吸が苦しくなって、気道狭窄音として「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という呼吸音(喘鳴)が聞かれたりします。どうして気管支が狭くなるのかというと、それには体質が大きく関係しています。

成人の気管支喘息は大まかに二つのタイプに分けられ、小児喘息の既往があるタイプと大人になって初めて喘息を発症するタイプがあります。前者はアレルギーを起こしやすい体質(アトピー体質)と関係があり、後者はアトピー体質以外の何らかの遺伝的な体質が関係していると考えられています。

いずれにせよ、それらの体質によって症状がない時でも気管支には慢性的に炎症が起こっていて、非常に過敏になっており、ちょっとした刺激(ダニ、ハウスダスト、花粉、ウイルス、タバコの煙、大気汚染物質、寒冷など)によって容易に気管支が収縮して狭くなります。病態としてはよく火事に例えられていて、絶えず火種がくすぶっていて、いつでも発火しやすい状態をイメージしてください。したがって、治療は火事になってからの消火活動や発火を防ぐこと以上に、火種を常日頃から消しておくことが大切です。すなわち症状がないときから、慢性的な炎症を抑える予防治療が重要なのです。
また、何度も火事を繰り返していると、やがて火事がより起こりやすくなり、消火もどんどん大変になっていきます。喘息が重症化し、コントロールが難しくなるというわけです。

喘息は体質が関係していますので、治癒する疾患ではなくてうまく付き合っていく慢性の疾患です。発作が治まると呼吸も楽になるので、吸入などの治療をすぐにやめてしまう患者さんがおられますが、次の発作を起こさないように、そして重症化を防ぐためにも、治療の減薬や中止はより慎重に行ってください。

いきいき生活通信 2020年 5月号

新型コロナウイルスによるパンデミック感染症について

2月のコラムで新型コロナウイルス感染症についてお話ししたのですが、実を言うとその頃はまだ、私自身は他人事のように思っていました。しかし、その後じわじわと感染者が増えていき、自分や自分の周囲で感染が起こることが現実味を帯びてくると、「これはかなり大変だ」と実感するようになりました。そして先月11日には、WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を宣言しました。
今、私は「私やスタッフ、そして外来患者さんや透析患者さんが感染したらどうしよう」と日々、戦々恐々としています。

患者数や死亡者数が連日報道されていますが、診断されていない無症状の感染者や軽症者が実際にどれくらいいるのかわからないため、新型コロナウイルス感染症の危険性を把握しにくい部分も正直あります。ただ、その部分を差し引いても、イタリアの状況などを見ていると、季節性のインフルエンザの何倍も危険性が高いと考えなければいけないでしょう。
ちなみに日本では、2018年、2019年とこの2年間は年間3000人以上の人がインフルエンザで亡くなっています。もちろん、感染者数は新型コロナとは全然違いますが。

さて、パンデミック感染症が私たちの健康だけでなく、社会に対してこれほど多くの影響をもたらすことは想像以上でした。学校が休校になり、いろんなイベントが中止になって、さらに街の閉鎖や渡航制限など、医療以外にも経済を中心としたいろいろなところで多大な影響がでていて、世界中が大混乱といった様相を呈しています。
もういい加減、うんざりしてきていていますし、できるだけ早く落ち着いて欲しいと切に願っていますが、こんな時こそ“ポジティブな考え方”をしたいです。

そもそも地球は人間だけのものでは絶対にあり得ないので、パンデミック感染症は必然的なことであり、それは過去の歴史が証明しています。今回の新型コロナが終息しても、いずれはまた別のパンデミック感染症が起こるでしょう。もっと恐ろしい感染症かもしれません。

私たちは今、人類の未来にとって、プラスの経験をしているのかもしれません。大災害を経験することで、その対策を考えていくように、パンデミック感染症に対して、現代社会はどのように向き合うべきか、今回の新型コロナウイルスが私たちに多くのことを暗示してくれているのだろうと、私はそう思うようにしています。

いきいき生活通信 2020年 4月号

オンライン診療について

クリニックの東隣りのJT跡地でいよいよマンション建設などの工事が始まります。大きなマンションが3棟できる予定で4年がかりの大事業です。この地域はますますにぎやかになっていきますね。もちろん嬉しいことではあるのですが、ちょっと憂いもあります。日本の人口が減少していることを考えれば、にぎやかになっていく地域以上に、寂しくなっていく地域があるはずで、あまりにも都会に人が集中し過ぎているように思います。革新的な政治の力で地方にもっと人の流れを作って欲しいですね。

一方、医療の世界では地方に住む患者さんが自宅に居ながら東京にいる名医の診療を受けることができる時代がやって来つつあります。その中心的な役割を担うのがオンライン診療です。

オンライン診療とは、インターネット上で予約、問診、診療、処方、決済までを行う診療などのことです。時間がなくて病院になかなか行けないというのは実際のところよくあることだと思います。私自身も平日に病院を受診するためには外来を休みにするか、代診の先生に外来診療を依頼しないと受診することができません。緊急な場合や重症であればもちろんそうするのですが、気になる程度であれば、結局“放ったらかし”になってしまいます。
皆さんも仕事などが忙しくて、そのために通院しなくなってしまうこともありますよね。

また、病院まで遠くて通院するのが大変な場合や、付き添いが必要な場合なども病院を受診するだけで一苦労であり、おまけに待ち時間や検査などで一日中かかってしまって、へとへとになることもしばしば耳にします。そもそも病態の安定している患者さんにとっては短時間の診療のために何時間も待たされること自体が大きなストレスになりますね。かく言う当クリニックも日によっては長い時間待って頂くこともあって、その時は心苦しく思っています。

2018年に厚労省より指針が示されたオンライン診療はいろいろと条件が付くのですが、初診ではなくて定期的に通院していて、安定している患者さんに適応があります。患者さんはスマートフォンやパソコンで診療予約し、その時間にその通信機器でビデオ電話に接続して、診療を受けます。支払いはクレジットカードでの決済で、後日処方箋や薬が自宅に配送される仕組みです。

オンライン診療を取り入れている医療機関はまだまだ少ないのですが、今後医療において重要な役割を果たしていくのではないかと思っています。

いきいき生活通信 2020年 3月号

新型コロナウイルス感染症について

寒いのは苦手なので、暖冬はうれしいのですが、冬は冬らしくあってほしいというか、ここまで暖かいとちょっと不安になりますね。
これも地球温暖化の影響らしく、昨年(令和元年)の日本の年平均気温は1898年の統計開始以降で最も高い値となる見込みです。世界も同様の傾向で、最近の異常気象やグレタ・トゥーンベリさんの登場をみていると、いやが応でも地球温暖化について考えさせられます。私の考えはというと、悲しいかな、今のところno ideaです。

さて、昨年12月から中国の武漢市で集団発生した新型コロナウイルスによる肺炎が世界中で話題になっています。新型コロナウイルスとはいったいどんなウイルスなのでしょうか。

ウイルスはDNAやRNAの数、逆転写酵素の有無などによって7群に分類されていて、現在約2800種類ほどが知られています。そのうちの約30種類がコロナウイルスで、特徴は

  • 一本鎖のRNAウイルスであること
  • 太陽のコロナのような外観をしていること
  • ヒトに感染するのは風邪の原因となる4種類と、動物から感染して重症肺炎であるSARS(サーズ)とMERS(マーズ)を引き起こす2種類がある

ということです。特にSARSとMERSはまだ皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。

ちょっとおさらいしておくと、SARSは2002年中国から発生して30を超える国と地域で拡大し、最終的には約8000人が感染して、774人が死亡しました。コウモリを自然宿主としていたSARSコロナウイルスがヒトにも感染するようになったようです。

一方、MERSは2012年サウジアラビアから発生し、今も散発的に流行が続いている状況であり、特に2015年には韓国の病院で感染が拡大して、問題となりましたね。こちらはラクダに風邪症状を引き起こすMERSコロナウイルスがヒトにも感染するようになったと考えられています。

そしてこのたび、新たにヒトに感染するコロナウイルスが見つかったわけですが、その新型コロナウイルスもヒト以外の脊椎動物から感染した可能性が高いようで、またヒトからヒトへの感染性も確認されています。ウイルスはやはりヒトにとって脅威ですね。

鳥インフルエンザもそうですが、新興感染症の多くが人獣共通感染症であり、一方、ヒトとウイルス保有動物との接触機会は増えている現状で、いったいどうしたら良いのでしょうかね。
私の考えはというと、やっぱり、今のところno ideaなのですが、ただ、最強のウイルスを生み出さないためにも、ウイルスの排除ではなく、共存が重要だと思っています。

いきいき生活通信 2020年 2月号

ハンセン病について

皆さん、明けましておめでとうございます。本年も神明クリニックをどうぞよろしくお願いいたします。

「今年はどんな一年になるのだろか」とふと考えると、期待と不安が交錯する微妙な感覚を覚えます。もう若くないのでしょうね。希望がないわけではないのですが、期待よりも不安の方が強いかもしれません。自分のこと、家族のこと、仕事のこと、世の中のことなど、思えば不安は尽きませんが、今日も明日も自分ができることをしっかりするだけですね。

さて、新年早々明るい話題といきたいところですが、今回はちょっと暗い歴史のあるハンセン病についてのお話しです。ハンセン病はらい菌による感染症で、主に皮膚と神経を侵し、悪化すると顔や手足の変形をきたすこともある疾患です。現在、ハンセン病患者さんは国内にほとんどいないので、私自身は診察した経験はありませんが、その病名は最近よく耳にしていました。昨年11月にハンセン病患者の家族にも補償金を支給する法律が成立しましたね。ちなみに患者さん本人への補償については2001年に成立しています。

今から100年以上前、当時ハンセン病は「恐ろしい伝染病」と考えられていたために、患者を減らすためには隔離が有効な手段とされていました。さらに「不治の病」という認識のもと、全ての患者を収容しようとした時期がありました。そして、時には重労働を強いたり、反抗するものに対しては裁判なしに処罰することもあったそうで、絶望の後に亡くなった患者さんも少なからずいたようです。

しかし、戦後に治療薬が次々と開発され、やがてハンセン病は治る病気となり、1960年にはWHO(世界保健機関)が外来での治療を提唱しました。

ただ残念なことに、日本で隔離を柱とした「らい予防法」が廃止されたのは1996年のことでした。つまり約一世紀もの間、ハンセン病患者さんは差別と偏見によって非常に苦しい思いをしてきたのです。そして、つらくて悔しい思いをしてきたのは患者さんだけではなく、その家族も同様でした。ハンセン病患者の家族というだけで、いろいろな差別を受けてきたのは、想像に難くないかと思います。「恐ろしい感染症」であれば、隔離もやむを得ないこともあるでしょうし、難しい問題だったと思うのですが、このたび、国が長い間の隔離政策の非を認めて、患者さん家族に謝罪をしたのは、個人的にはすごくうれしかったです。

いきいき生活通信 2020年 1月号